ムツ【鯥】

ムツ【鯥】 イラスト:小倉 隆典
  • 分 類スズキ目ムツ科ムツ属
  • 学 名Scombrops boops
  • 英 名Gnomefish
  • 別 名ロクノウオ、クルマチ、ギンムツ、モツ

釣りシーズン ベストシーズン 釣れる

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

分類・分布

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ムツは、硬骨魚綱スズキ目ムツ科に属する海水魚である。アカムツ、ハチジョウアカムツ、バラムツ、アブラソコムツなど、ムツとは分類が異なっていても、よく似た深海性の大型肉食魚の和名にムツが付く場合がある。また、ムツに似なくても、和名や地方名にムツが付く魚も多い。
ところが、正式なムツ科に属する魚は、全世界に1属4種しかいない。うち、日本近海に棲息しているのは、ムツとクロムツの2種だけだ。両者は外見が酷似しており、専門家でも見分けがつかないほどで、市場でも区別されることはほとんどなくホンムツとかクロムツと呼ばれ混同されている。
ムツの棲息域は、インド太平洋とアフリカ南部の大西洋で、日本では北海道以南から鳥島まで見られる。一方、クロムツは北海道以南から駿河湾、新島にかけての太平洋沿岸域と、ムツよりも北に偏っている。


特徴

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体型は整った紡錘型で、目と口が大きく発達する。両アゴには多数の鋭い歯が1列に並ぶ。舌上と咽頭骨上にも小犬歯が密生している。エラブタには2対の棘を持つ。
背ビレはふたつに分かれ、胸ビレは細長く、尾ビレは深く2叉する。体は、比較的大きなウロコで覆われている。このウロコは、幼魚期には非常に剥がれやすいが、成魚になると剥がれにくくなる。
幼魚の体色は、背部が赤褐色ないし黄褐色だが、成魚は全体的に紫褐色となり、腹部は銀灰色、尾ビレは黄褐色で縁辺は淡黒色を帯びる。また、幼魚の口の中は白いが、成魚は黒い。なお、近縁種のクロムツは全身が紫がかった黒褐色であることから区別できるが、幼若魚期の体色は両種ともほぼ一緒であるため見分けることは困難だ。
胃はT型で、盲嚢(もうのう)が長大であり、食い溜めができるようになっている。これは、いつエサにありつけることができるか分からない深海魚の特徴である。


性質

産卵は初冬~早春に沿岸域で行われ、分離浮遊卵を産む。孵化した稚魚は、表層域で動物性プランクトンを食べながら浮遊生活を送る。体長4~5㎝になると、イワシ類の仔魚などの魚類を捕食し始め、5㎝以上になると完全な魚食性となり、18㎝前後まではキビナゴを主としたイワシ類を主食として成長する。そして、沿岸の岩礁域で群れを作り始める。
秋には体長20㎝ほどの若魚となり、沖合いの深みへと落ちてゆくと同時に、明るかった体色は棲む環境に伴って暗い色へ変化する。満2年で水深100m付近に、体長40㎝ほどになる3年を過ぎると、さらに深海へと移る。成魚は水深200~500mほどの起伏に富んだ岩礁域や底層で、小魚やイカ、エビ類などを捕らえて1m以上に育つ。


文化・歴史

ムツの口は大きく、エサを一気に飲み込むので、通常のJ字タイプのハリでは口腔の奥深くに刺さってしまう。このため、上下のアゴに生え揃った鋭い歯によって、ハリスは簡単に切られてしまう。いったんは飲み込まれても、歯の外側の唇に刺さるハリが望ましいということで考案されたのが「ムツバリ」である。ハリ先が内側に曲がっているのが特徴で、一度ハリ掛かりすると外れにくいことから「地獄バリ」、または、寝ていても向こうアワセで魚が掛かることから「ネムリバリ」とも呼ばれている。
ムツというのは、「味が濃い」「しつこい」「脂っこい」などという四国地方の方言「ムツコイ」に由来するといわれている。現在は、脂の乗った魚を高く評価するが、昔はウマミが味の評価の基準であり、脂はマイナス材料だったようで、このような名前が付いたとされる。
また、仙台での別名である「ロクノウオ(六魚)」については、江戸時代の仙台伊達藩主が陸奥守(むつのかみ)であったため、主君を呼び捨てにすることをはばかり、「ムツ」を「六」と置き換え名付けられた。
そのほかムツメ(神奈川県)、オキムツ(富山県)、モツ(高知県)、クジラオトシ(福岡県)、メバリ(長崎県)、ムツゴロウ(鹿児島県)、クルマチ(沖縄県)など、地方名はじつに多彩だ。


釣り方

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30㎝未満の小型は沿岸に近い水深150~200m、60㎝未満の中型は水深200~300mくらいの場所がポイントとなるため、沖釣りで狙うのが一般的だ。ムツ釣りが盛んな関東では、東京湾口の浦賀水道、南房、東伊豆、南伊豆、伊豆七島などが好ポイントとして知られている。ほぼ周年にわたって釣ることができるが、ベストシーズンは9~3月。地域や季節によって、深海~中深海と狙うタナが変わること、また、船宿によってはオリジナルの仕掛けを使用するところもあるので、タックル(竿、リール、糸を含む道具一式)や仕掛けについては事前に確認することをお勧めする。
また、体長20㎝前後の幼魚は、堤防や小磯などからルアーやサビキ仕掛けなどで釣ることができる。

【深海釣り】

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図は、中型サイズまでを想定した仕様。リールはPE(高密度ボリエチレン素材でできたより糸)号が300~400m巻ける小~中型両軸、または小型電動リールでカバーできる場合もあるが、300m以深を狙う場合はPE8号が600m以上巻ける深場専用の中型電動リールが必須だ。
付けエサは、サバの短冊の場合はハリ先にチョン掛けする。冷凍シコイワシの場合はアゴ掛けにするとトラブルが少ないが、誘いの動きを活かすなら目抜き掛けもお勧めだ。
仕掛けの着底後、しっかりとタナ取りをしてからアタリを待つ。ムツは上から落ちてくるエサに反応しやすいので、適宜、誘い落としの動きを演出してやると効果的だ。

【ルアーフィッシング】

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ムツの幼魚が岸寄りに群れてくるのが、晩夏〜秋。この群れを狙って楽しむのが、ルアーのライトゲーム(軽量のルアー釣り)
タックルやルアーは、アジやメバルを狙うものを流用できる。ルアーはワーム+ジグヘッド(オモリの付いたワーム用の針)ほか、小型のメタルジグ(鉛などの金属製のルアー)やミノーにも食ってくる。ジグヘッドは1〜2gのアジ用を使用すればよい。
釣り方は、ムツが回遊してくる根まわりやブロックのきわ、船道のカケアガリなどにルアーをキャストして、切れのいいトゥイッチング(リールを巻きながら「チョンチョン」と小刻みにロッドを動かす)で誘ってくるのが基本。魚の活性に応じて、タナ(魚が泳ぐ水深)を刻みながら探っていくのがコツだ。

製品例
ワーム


料理

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ムツの身はタンパク質と脂肪分が多く、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、動脈硬化やガンを抑制するビタミンA、細胞を若々しく保つビタミンEを豊富に含んでいる。
脂が乗った白身でクセがなく、刺身はもちろんのこと、煮付け、照り焼き、鍋物、フライ、唐揚げなど、さまざまな調理法でおいしくいただくことができる。冬期はとくに脂が乗って非常に美味。産卵前の卵巣は「むつこ」と呼ばれ、煮付けや椀種として珍重される。
ムツは、内臓も皮もおいしい魚で、捨てるところがない。アラをぶつ切りにした味噌汁は、よいダシが出てすこぶるうまい。冬の冷えた体を芯から温めてくれる。

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

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