世界中の熱帯、温帯に広く分布する魚で、日本でも北海道以南で一般的に見られる。
ボラ科の魚は2亜科17属70種以上が知られており、大半は沿岸性の海水魚だが、一部淡水性の種類もいる。
日本近海にはボラ属、メナダ属など5属が棲息し、本種のほかにメナダ、セスジボラ、フウライボラ、コボラ、オニボラ、ナンヨウボラなどがいる。とくにメナダは全国的に分布するために、本種と一緒に水揚げされることもあるが、メナダは比較的寒冷な海を好み、ボラは暖海を好むとされる。
ボラ【鯔】
- 分 類ボラ目ボラ科ボラ属
- 学 名Mugil cephalus
- 英 名Flathead mullet
- 別 名イナ、クロメ、イセゴイ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
体形は細長く、断面は頭側が逆三角形、尾に近い部分は紡錘形となっている。体色は、背中側が青灰色、体側から腹部は銀白色。胸ビレの基部は濃青色になっており、体側には不明瞭な細い縦縞が数本ある。
鼻先は平べったく、口はやや小さくて上顎が伸縮するようになっている。目は脂瞼(しけん)というレンズ状の器官で覆われており、冬にはとくに脂瞼の周囲に脂肪がつき、白濁した状態になる。
背ビレは2基あり、第1背ビレには棘条が発達し、そのうち前3条が基部で接しているのが特徴。尾ビレは中央がくびれており、体に対して比較的大きい。
なお、ボラ科の魚には側線はないが、鱗の一枚一枚に小さな孔があり、そこで水流などを敏感に感じているとされる。
本種によく似たメナダは、脂瞼があまり発達していないこと、目や唇に赤みがあること、尾ビレ中央があまり切れ込んでいないことなどで区別することができる。
沿岸部の浅場、河口や内湾の汽水域に多く棲息する。水の汚染に強く、都市部の港湾や川でも普通に見ることができる。
体長が同じくらいの個体同士で群遊し、ときには海面上に大きくジャンプする。ジャンプの理由はまだわかっていないが、水中の酸素欠乏、物音に驚いて外敵から逃げるため、体に付いた寄生虫を落とすため、など諸説ある。
食性は雑食で、底に積もった泥中のデトリタス(生物の死骸や排泄物などを起源とする微細な有機物粒子)、付着藻類などが主なエサとなる。細かい歯の生えた上アゴを伸縮させて平らな下アゴで受け取るようにして、泥ごと口内に取り込む。ボラの胃の幽門部は丈夫な筋肉層が発達して、俗に「へそ」と呼ばれているが、これはこの泥混じりのエサをうまく消化するために発達した器官である。
産卵期は10~1月頃とされ、4歳前後の成熟したボラは産卵期になると外洋へ出て南方へ回遊する。そのルートや産卵場所、産卵の詳細ははっきりとは解明されていないが、薩南諸島周辺を含めた南方の海域が産卵場所だと考えられている。
卵は直径約1㎜の分離浮性卵で、産卵数は約200万粒ほど。卵は数日で孵化し、春頃3~6㎝に成長すると再び沿岸域へ戻ってくる。体長は1年で20㎝、2年で30㎝、3年で40㎝となり成熟する。最大で80㎝以上に達する。
ボラの名の語源については、太い腹という意味の「ほばら」が転じたものとも、ボラの姿形が角笛に似ていることから中国の言葉で角笛を表す「ハラ」が転じたものともいわれている。
成長するに従って呼び名が変わる出世魚で、出世や成長につながるということから、正月や子供のお食い初めの祝い魚として用いて、高級魚扱いする地域もある。
呼び名、およびその順番は多少異なることもあるが、関東ではオボコ・イナッコ・スバシリ・イナ・ボラ・トド、関西ではハク・オボコ・スバシリ・イナ・ボラ・トド、東北地方ではコツブラ・ツボ・ミョウゲチ・ボラなどと呼ばれる。
「とどのつまり」という言葉は、ボラがこれ以上大きくならないトドからきたもの。また、幼子を「おぼこい」というが、これもボラの幼魚・オボコが語源だ。
そして、粋な若者のことを「いなせ」と形容するが、江戸時代の魚河岸の若者がイナの背ビレのように髷(まげ)を結ったことから、また頭頂部をイナのように青く剃り上げた様子が由来とされる。
ボラは外道扱いされやすい魚だが、いざ、狙って釣るとなるとひと筋縄ではいかない相手でもある。釣り方は、全国各地でさまざまな釣法が行われている。
【ウキフカセ釣り】
ボラを狙って釣る場合、その小さなアタリ(魚が食付いた信号)をキャッチするのに苦労させられることが多い。実際、ヘラウキ並に優れた高感度の立ちウキを使用したウキフカセ釣りでボラを狙ってみると、その釣技の奥深さに感激するはずだ。
図の仕掛けは、オキアミエサで底ダナ(海底近くの層)~中層を狙っていく場合の例。ボラのアタリは想像以上に小さいので、感度に優れた立ちウキを使うことが重要だ。また、ボラは小さなエサを好むため、ハリや付けエサのオキアミも小型のものを選ぶとよい。コマセ(魚を寄せる為の撒き餌)は比重のあるクロダイ用のものが流用できるが、中層のタナを攻める場合は水分量を多めにしてバラケやすくしてやる。
【カットウ釣り】
カットウバリと呼ばれる擬餌バリで、ボラを誘き寄せてハリ掛かりさせるユニークな釣法。
竿は、胴に粘りとパワーのある頑強なものが必須。専用竿は入手困難なので、コイ竿やアユ用のコロガシ竿などを流用するとよい。ただし、穂先のリリアンは強烈な引きで千切れることがあるので、強度のあるケブラーなどに交換しておく。
カットウバリは、市販品にいろいろなタイプがある。また、タコベイトなどで自作することも可能だ。ミチイトは、魚からハリが外れたときに仕掛けが体に直撃しないように短めにしておくとよい。
【風船釣り】
遠州灘では、秋~冬のボラを「風船釣り」という方法で狙っている。枝ハリスにシモリウキをセットすることによって仕掛けが海中で風船のように漂い、付けエサがボラにアピールする仕組みだ。この仕掛けは、遠州灘近辺の釣具店で販売されている。
竿は5.3m程度と長めを選ぶことで、荒波でもミチイトが海面に叩かれにくくなる。エサはミミズかアオイソメの房掛け(針に餌を房状に何匹も付ける)。ミミズを使う場合は、弱るのが早いため、マメに交換することが大切だ。
【フライフィッシング】
ボラはフライフィッシング(フライ=毛鉤を用いた釣り)の隠れた人気ターゲットでもある。
ボラの強烈なファイトを考慮すると8番程度のソルト用のタックルがお勧めだが、まずは手持ちのタックルで楽しんでみよう。引きに負けそうなら、次回はより強い道具で再挑戦すればよい。基本的に表層狙いとなるので、リーダー(フライラインとフライを繋ぐテーパー状になったライン)にマーカー(目印、ウキ)をセットしてアタリを取るのもOK。
使用フライは、釣り場の環境や釣り方によって、藻類やアミエビを模したタイプを適宜使い分けよう。
釣り方は、流れ込みなどに群れているボラを流れ藻を模したフライで釣る方法のほか、堤防などでエサ釣りで使用するアミコマセを撒いて(チャミング)、アミを模したフライに食わせる方法がある。いずれの場合も、活性の高いボラを探して釣ることがヒットへの近道だ。
しゃぶしゃぶ
ムニエル
内臓にある胃の幽門部は俗に「へそ」と呼ばれる
ボラは汚染した水域にも多く棲息するため、身が臭いという悪評が定着しているが、これはボラが海底の泥を吸い込んで食べているため。当然、底質が悪い環境に棲むボラはどうしても泥臭くなるが、水質のきれいな場所で釣れたボラは非常に美味だ。とくに、脂がのる冬の「寒ボラ」は絶品。刺身、洗い、しゃぶしゃぶ、フライ、ムニエル、唐揚げなど、さまざまな料理方法で食べられる。
ボラをおいしく食べるコツは、釣れたらすぐに活き締めし、内臓を取り去った後に臭みの元となる腹の内側の黒い膜もきれいにこそぎ落とすこと。これでクーラーで冷やしたまま持ち帰ればタイ並みのおいしさを味わえる。新鮮なうちは弾力が強いので、1~2日冷蔵庫で熟成させてから料理するのもいいだろう。
なお、内臓にある胃の幽門部は俗に「へそ」と呼ばれるが、鶏の砂肝のようなコリコリした食感でおいしい。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)