ブダイ【舞鯛、武鯛】

ブダイ【舞鯛、武鯛】 イラスト:小倉 隆典
  • 分 類スズキ目ブダイ科ブダイ属
  • 学 名Calotomus japonicus
  • 英 名White-spotted parrotfish
  • 別 名アカブダイ、イガミ、モハン、エガミ

釣りシーズン ベストシーズン 釣れる

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

分類・分布

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ブダイが属するブダイ科には10属88種が記録されており、これらブダイ科の魚類は大西洋、インド洋、太平洋など、世界中の熱帯・亜熱帯域に広く分布している。本種はブダイ科のうち、タイワンブダイ、チビブダイなどと共にブダイ属に属する。
本種の日本列島近海での棲息域は本州中部以南の沿岸で、とくに南日本と伊豆諸島に多く見られる。また、東シナ海、朝鮮半島、インド洋などにも分布している。


特徴

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成魚の全長は平均して30~40㎝。最大で60㎝程度まで成長する。鮮やかな青色の近似種、アオブダイが最大80㎝ほどにまで成長するのに比べると小型だ。
体型はタイのように体高があり、側扁している。ウロコはとても大きく柔らかい円鱗で、体側のほかに頬にもウロコがある。側線鱗は23枚前後。側線は体の背縁寄りに走り、尾柄の前端あたりで急激に側中線を通る。尾ビレの後縁は緩やかに曲がり、遊泳力は弱い。
体色は背部が褐色で、腹部は淡黄色。オスは全体的に青みがかっているが、幼魚とメスは赤みが強い。
生態的な特徴として性転換することが知られているが、性転換してオスになった二次雄は、体色が緑がかり、頬部に不規則な赤斑紋ができる。
アゴの歯は強く、喉にも頑丈な歯がある。ブダイ科の魚は、歯が癒合(ゆごう)し、クチバシのような歯板を形成する種が多いが、本種の癒合は不完全であり、歯板にならないのが特徴である。また、ブダイの歯は折れたり欠けたりすると、新しい歯がせり上がってくる。エビやカニなど硬いものをかみ割って食べるのに都合のよい仕組みだ。


性質

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ブダイは1匹のオスを中心にハーレムをつくるが、このオスがいなくなると、もっとも大きいメスがすみやかに性転換をしてオスになる。また、多くのベラの仲間と同様に昼行性で、日中は活発に捕食活動をするが、日が暮れると海底の岩陰やサンゴ礁の切れ目などで休む。
食性は雑食で、冬の低水温時には海藻類を主食とするが、夏の高水温時にはエビやカニなどの動物質のエサを主食とする。食性が変化するきっかけとなる水温は、18℃くらいであるとみられている。
エビやカニなどを捕食する場合は、独特な丈夫な歯を使ってバリバリとかみ砕くようにして捕食するが、海藻類の場合は、はみ取るようにして食べる。また、造礁サンゴを食べることでも知られている。サンゴ片のように消化できないものは、かみ砕いた後に口の外に吐き出す。
水温15~23℃の間で活発に捕食するといわれているが、泳ぎは達者ではなく動作はやや緩慢である。
1年で全長14㎝、2年で23㎝、3年で29㎝、4年で33㎝、5年で36㎝に成長し、最高年齢は8歳。すべての個体が2歳で成熟し、5~9月に産卵期を迎える。産卵は、沖合の流れのある場所に数百匹のメスが集まり、その近くでオスが縄張りを張る。そして、満潮を過ぎるとつぎつぎに産卵をする。
熟卵は直径が0.6㎜と非常に小さい球形で、25℃の水温では24時間以内に孵化。孵化後の仔魚も小さく、全長は1.6㎜ほどである。

【ブダイが捕食する主なエサ】

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夏場になると岩場のカニを好んで捕食する。折れたり欠けたりしても再生する特異な歯を持つブダイは、硬いカニの甲羅などものともせずかみ砕く。

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冬場は、クロメやホンダワラなど、海藻類を好んで食べることで知られるブダイ。なかでもヒジキは釣りのエサにも使われるほどで、ブダイの好物である。


文化・歴史

ブダイという名前の語源には諸説あり、さまざまな漢字が当てられる。大きなウロコに覆われた姿が、武士が戦で着る鎧のように見えることから「武鯛」。ひらひらと舞うような泳ぎ方をすることから「舞鯛」。不器量な姿をしていることから「不鯛」。また、日本で系統的に初めて標準和名を提唱した田中茂穂は、「部鯛」と記している。
地方名もじつに多彩で、和歌山、関西、九州・宮崎では「イガミ」「イガメ」「エガメ」などと呼ばれるのだが、これは密生した歯が口からはみ出し、怒ったような顔に見えることから、動物が牙をむいて争う様をいう「啀(いがむ)」という言葉が転訛したものだといわれている。
九州地方では、藻を好んで食べることから「ミハミ」「モハン」などと呼ばれている。その他、アカエラブチャー、アカブダイ、イソダイ、オオガン、フダイ、トネ、モハンなどがある。ちなみに、英名のパロットフィッシュは、歯がオウム(=パロット)のクチバシに似ていることから付けられた名前である。
ブダイは冬が旬であるため、俳句などの季題になることもある。その際は「舞鯛」という名が用いられることが多い。貝塚から咽頭骨が出土するなど、ブダイは古代から利用されていたとみられており、江戸時代の外科医である武井周作著の『魚鑑』にも本種についての記述がある。
伊豆諸島沿岸では、刺し網などにより漁獲されているが、そのほとんどが地元で消費され、市場にはほとんど出回らない。伊豆大島では、冬の西風が吹くとブダイの開きが軒先で寒風にさらされ、干物に加工される。体色が鮮やかなブダイの寒干しは、島の冬の風物詩だ。紀南地方では正月料理として食す習慣があり、ブダイの煮付けは地域の名物料理となっている。


釣り方

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ブダイは磯や防波堤でほぼ1年中狙うことができるが、食性の変化に伴って季節ごとにエサを変えて狙うのが特徴だ。夏場はカニエサが主流。ショウジンガニが最高だが、イソガニやイシガニなどもよく食う。一方、冬場のエサはハバノリのほか、ヒジキやホンダワラなどの海藻が主に使われる。また、エビエサも積極的に食ってくる。
釣り場は、潮通し(潮流の流れる場所)がよく、隠れ根(魚が身を隠せる岩)やゴロタ石(大小不揃いの大きな丸い石)があり、藻が繁茂している磯場がベスト。潮なりにいくつもの隠れ根が連なっているようなところは、絶好の狙い場だ。ブダイは“根頭を釣れ”といわれるように、海中の隠れ根の上を直撃するのが一番だが、磯ぎわや堤防近くの潮通しのよい浅場の岩礁も好ポイントである。

【ウキ釣り】

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冬、磯場などにハバノリ(ハンバノリ)と呼ばれる海藻が付着する頃になると、これをエサにした「ノリブダイ釣り」がシーズンになる。この釣りの特徴は、ブダイの繊細なアタリ(魚が食付いた感触)を取るため、また、沖合のポイントに遠投するために大きく長い棒ウキを使うことである。ゆらゆらと大きなブダイウキが揺れる様は、冬の風物詩である。
タックルは、磯竿3~4号クラスに中型スピニングリールの組み合わせが基準。ウキは専用のブダイウキが理想だが、手に入らない場合は大型のチヌウキ(クロダイ用のウキ)を流用すればよい。仕掛けは、付けエサが底ダナ(底スレスレ)にうまく漂うように、松葉テンビン(2本針にできるテンビン)で2本バリを段差仕様にする。
エサのハバノリは湿気に弱いので、ボロ布やガーゼに広げて半乾きの状態で携行するとよい。装餌(餌を針につける)するときは、数枚まとめて縫い刺しにしてハリにまとめ、ボリューム感を出すとよい。海藻類が手に入らないときは、色や形が似ているホウレンソウやダイコンの葉で代用する方法もある。なお、ハバノリなどは漁業権のある場所では採取禁止なので注意しよう。
釣り方のコツとしては、エサが根の上ギリギリを漂うように、マメにウキ下(ウキから下の仕掛けの長さ)を調整することが重要だ。アタリは微妙なので、ウキになんらかの変化を感じたら積極的にアワせて(竿をあおって魚の口に針掛かりさせる)ゆこう。ハリを飲み込まれると鋭い歯でハリスが切られてしまう。

【ウキ釣り(ライト仕様)】

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関東の釣り場では、ライトタックル(軽量の道具立て)で挑むスタイルも人気。ただし、仕掛けが軽量なので、エサを安定して海底に漂わせるためには、風が静かな凪の日を選ぶ必要がある。
仕掛けやタックルは、メジナやクロダイ用を流用できる。竿は1.5~2号クラス。ハリスは根ズレに強いフロロカーボンにするのが無難で、2号が基準となる。また、ブダイは鋭い歯を持っているため、ハリスのチモト(針の糸を結ぶ箇所)は編み込みで補強しよう。ウキは、繊細なアタリが取りやすいクロダイ用の棒ウキがお勧めだ。

【投げ釣り】

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カニエサを使う投げ釣りは、石物釣り(イシダイ、イシガキダイ類)に通じる豪快さがある。主なポイントは、潮通しのよい沈み根(水中に沈んでいる見えない大きな岩)のまわりや沖に続く溝、消波ブロック周辺など。
使用するタックルは、5.3m、3号クラスの磯竿に中型スピニングリールの組み合わせが一般的。根掛かりが多くなるので、仕掛けは胴付き(一番下にオモリを付ける仕掛)の捨てオモリ式(引っ掛った際にオモリだけ切れるようにする仕掛け)にするのが基本だ。捨てイト(捨てオモリ式を作った際の糸)の長さは50㎝前後で、海底の変化が激しいポイントでは長めに設定するとよい。エサのカニは、現地で採取できるショウジンガニが最高だ。
前アタリ(魚が針に掛かる前の餌をついばむ感触)があったら少しだけ竿を送り込み(魚が違和感なく食いつくように糸を緩めること)、じっくりと食わせるのがコツ。アワせたら根からできるだけ早く引き離そう。


料理

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煮付け

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ウロコの唐揚げ

ブダイの旬は、動物食性から植物食性に変化して磯臭さが消える冬。刺身をはじめとして、霜皮造り、漬け、寿司などでおいしい。ムニエル、フライ、唐揚げ、味噌漬けなどにも向いている。背開きにして塩を振って干した干物も格別の味だ。
煮付けは、適当な大きさに切ったブダイをザルに並べ、皮目から熱湯をかける。水、酒、ミリン、醤油、砂糖を鍋に入れ、煮立ってきたら、ブダイとスライスしたショウガを並べて煮る。
変わったところでは、ウロコの唐揚げも美味。ウロコを熱した油でパリパリになるまで揚げて塩を振るだけだが、酒の肴に絶好の一品だ。
なお、ブダイの近似種であるアオブダイは、常食するスナギンチャクがもつパリトキシンと呼ばれる毒成分が蓄積していることがあるため、内臓を摂取すると中毒を起こす恐れがある。ブダイによる中毒は、一例が報告されているものの確証がなく、毒化はないものと考えられているが、アオブダイをブダイと間違えて内臓を食べてしまうことがないよう気をつけたい。

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

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