スズキ目サバ科マグロ属に分類されるマグロの仲間は、クロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、ビンナガ、コシナガ、タイセイヨウマグロ、そして、キハダの7種が知られている。分類学的には、クロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガの3種、コシナガ、タイセイヨウマグロ、キハダの3種が、それぞれ類縁関係が強いとされており、メバチマグロはグループの中間的な種とされている。
キハダは、太平洋、インド洋、大西洋の暖海や熱帯海域に広く分布している。また、太平洋やインド洋では赤道反海流域に多く見られるが、地中海には棲息しない。日本沿岸では北海道以南で見られるが、伊豆諸島以南の太平洋側から南西諸島にかけて多く、日本海にはまれである。
キハダ【黄肌、木肌】
- 分 類スズキ目サバ科マグロ属
- 学 名Thunnus albacares
- 英 名Yellowfin tuna
- 別 名キハダマグロ、キワダ、イトシビなど
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
最大で体長2m、体重200㎏に達するキハダは、マグロ属のなかではミナミマグロ、メバチマグロと並ぶ中型種である。ただし、熱帯海域では体長3mに達するとした文献もある。日本近海産は熱帯産よりも小型で、大きくても体長1.5m、体重70㎏ほどである。
体形は、クロマグロやメバチマグロに比べると若干体高が低く、スマートな紡錘形。頭はやや小さく、尻ビレが多少前にあり、尾部は細長い。第2背ビレと尻ビレが著しく伸長し、老成すると、その先端が糸状に伸びてゆく。また、これらのヒレの後方には、9つの離れビレが続き、いずれも鮮やかな黄色を帯びる。地方名も、この色にちなんだものが多い。
体の背部は濃青色、側面は黄金色、腹面は銀白色を呈し、体側に淡色の横縞状の斑紋がある。側線は発達し、胸ビレ上方で湾曲する。目は比較的大きく、若魚ではことに顕著である。口裂は大きく、後方は眼下に達する。
若魚は、体側の後方へ向けて下がる斜めの白い縞模様があり、第2背ビレと尻ビレは短い。他種との区別がつきにくく、とくにメバチマグロの若魚とよく似る。
分布域の広いキハダの産卵期は、まちまちである。産卵場所は北緯30度~南緯30度の海域で、水温26℃以上が適水温とされている。一度に100万~500万粒を産卵し、2~3日で孵化。仔魚期はプランクトンを捕食するが、稚魚期から魚食性が現れる。
体長数十㎝に達した若年期には、島(とう)嶼(しょ)や陸に近接した水域に棲息し、表層を群れをつくって遊泳するが、成長に伴い沖合に分布域を広げ、表層や中層を遊泳するようになる。成魚がとくに好むエサは、カタクチイワシやマイワシなどで、イワシ団子に群がるナブラに遭遇することもある。また、大型のキハダはサンマやトビウオなどの中型魚も捕食する。彼らに負けないスピードがある証明だ。
「我々がもっとも好きだったのは、金色のヒレのマグロ(=キハダ)が訪れてきたときに水面下に潜ることだった」と、トール・ヘイエルダールは『コン・ティキ号探検記』でキハダマグロの美しさを賞賛するとともに、キハダが漂流物に着くことも示している。実際、キハダは表層を浮遊する木材などの漂流物に付随遊泳する性質があり、木着き群とよばれる。また、イルカに着く習性もあり、若魚はカツオやメバチマグロと混群を作る。
キハダの成長はマグロ類のなかでは早く、1年で50㎝、2年で90㎝、3年で120㎝、5年で160㎝。寿命は8年ほどといわれている。
なお、マグロは変温動物の魚類だが、その体側筋の体温は水温よりも高く保たれている。エラを通して取り込んだ海水で冷えた動脈血の酸素に、運動熱で高まった静脈血の酸素の熱を与えることで高体温を保っており、この熱交換システムが高速遊泳を可能にしているのだ。その一方で、遊泳を止めると海水中の酸素を取り入れられなくなって窒息死してしまうため、一生泳ぎ続けなければならない。
キハダは、成長にともなって、眼径、胸鰭長、第2背鰭長、尻鰭長などの外部形質にかなりの変化を生じ、種の査定において著しい混乱を招いた種である。現在では、全世界のキハダは1種と考えられているが、1920~1930年頃には、世界のキハダは約7種に分けられていたという。
マグロのなかでももっとも漁獲量が多く、重要な食用魚であるキハダは古くから親しまれてきた。それを物語るように、地方名が多く、じつに豊かである。標準名であるキハダの漢字名は、黄肌(黄鰭)、もしくは木肌。これらはいずれも外見の色を表しており、古くは鰭(ヒレ)を「旗」と称していたことから、「キハタ」が「キハダ」に転じたものと思われる。
市場では「キワダ」が通称で、60㎝ぐらいまでの若魚を「キメジ」と呼ぶ。「キハダマグロ」「キワダ(キワダマグロ)」は別称である。また、「鮪」は「シビ」とも読み、奄美では鬱金(ウコン)色のシビから「ウキシビ」と呼ばれる。老成魚は第2背鰭の先が糸状に伸びていることから、三重・和歌山・宮崎では「イトシビ」。足のことを「ゲソ」や「ゲス」と称することから、静岡では「ゲスナガ」「クズナガ」。眼の大きな魚を「ハツメ」や「メバチ」などと呼び、キハダの眼も大きいことから、大阪・四国では「ハツ」「ホンバツ」。以上のように、地方によってさまざまな呼び名が付いている。
最近では、キハダの真皮から採取したコラーゲンで化粧水が作られている。体内への吸収率が高く、臭いが少ないのが特徴で、アレルギーの心配もほとんどなく、安全性の面でも非常に優れていると女性から注目されている。
南西諸島ではパヤオの大物釣りの対象魚として人気があり、フカセ釣り、パラシュート釣法、ジギング、ルアーキャスティング、フライなどで釣られる。しばしばジャイアントトレバリー(アジ科の大型魚)やカンパチなどと同じ海域でも見られるので、ルアー釣りでの人気が高い。
一方、関東近辺での乗合船では「メジ・カツオ」として、小型のキハダとカツオの両狙いが一般的である。そして近年では、相模湾や伊豆沖などで大型のキハダを狙うルアー船も多く登場している。20~30㎏が多くキャッチされており、ときには70㎏近い大物まで釣り上げられている。
【ルアーフィッシング・キャスティング】
図は、10~40㎏程度の魚をターゲットにした場合の例。マグロ専用タックルを使うのが理想だが、仲間同士のチャーター船ならシイラ用などのライトタックルなどでも対応可能だ。
優れた動体視力を有するマグロ類は、ルアーに対して非常にセレクティブ(えり好みする)なため、捕食しているベイト(エサとなる生き物)を予測し、それに合ったルアーをキャストする必要がある。ルアーはペンシル系が中心で、フローティングなら泡を巻き込みながらのダイブアクション、シンキングならゆらゆらとボディを揺らしながら沈むフォールアクションするものが有効だ。いずれも強度が重要なので、必ず貫通ワイヤ仕様のルアーを使用しよう。
釣り方は、主に鳥山などを目安に小型魚の群れを探し当て、そこに出るナブラ(小魚の群れが中、大型魚に追われ海面にさざ波をたてながら逃げ惑う状態)をルアーで直撃する。船長は、魚を散らさないように注意を払いながら、ルアーが届く位置まで船をゆっくりとナブラに接近させるので、その間に魚の進む方向などを目で確認しながら投げる準備をし、射程内に入り次第、スピーディかつ正確にキャストする。
大型がヒット(魚が針に掛かる)したとき焦って逃げ腰の状態になると、ロッドは完全にのされてしまう。魚にロッドを絞り込まれたら、膝を少し曲げ腰を落としてやりとりしよう。
製品例
ペンシル
【ルアーフィッシング・ジギング】
日本有数のマグロ釣りのメッカである沖縄県久米島では、パヤオにおけるジギング(メタルジグを使用したルアー釣り)が盛んだ。水深60m前後と120m前後を狙うことが多いので、メタルジグは100~300gくらいまでを用意しよう。ただし、近年ではあまり重いジグや大きなジグにはヒットしてこない傾向があるので、使える範囲内でできるだけ小型のものを選ぶとよい。カラーベースは澄み潮ならばシルバー、濁り気味ならばゴールドが基本だ。
釣り方は、船長の指示ダナより10mほど深くメタルジグを沈降させからシャクっていく。シャクリ幅やスピードは、その日の状況に合わせいろいろ試してみよう。
【エビング】
近年、注目を集めているスタイルで、メタルジグで魚を誘ってワームで食わせる釣法。コマセが大量に撒かれ、オキアミエサやバケサイズの小さなエサにしか反応を示さなくなったキハダには、とくに効果抜群だ。
ジギングロッドにエビング用のテンビンを結び、オモリ代わりにメタルジグを接続。テンビンの下にリーダー(ミチイトの先に結ぶ太い糸)を結び、ワームをハリに刺すだけといったシンプルな仕掛けだ。
釣り方は、通常のジギングとまったく一緒。船長の指示ダナより10mほど深く沈降させ、リズミカルにシャクっていく。シャクリ幅やスピードはその日の魚に合わせていろいろ試し、ソフトルアーを躍らせよう。
製品例
ワーム
【フカセ釣り】
大型のキハダには実績の高い釣り方。やりとりを楽しむ釣り方なので、1尾1尾を大切に釣りたい人にお勧めだ。
中型狙いまでであれば、ミチイトはPE2~3号、またはナイロン12~16ポンド、ハリスは10~14号ほどで十分だが、大型が回っているときにはミチイトPE4号以上、またはナイロン20号以上、ハリスは16~20号をセットしておこう。
エサとなるカタクチイワシは、エラの内側から軽くハリを刺すエラ掛けが一般的。マイワシなら、エラ掛けのほかに鼻掛けでもOKだ。
ひと昔前までは手釣りが多かったが、最近は、リールと竿の組み合わせで自由にイワシを泳がせて狙ってゆくスタイルが主流。投入は、スピニングリールなら軽く投げて、あとはイトフケを出し過ぎないようにイトをパラパラと出してゆく。両軸リールは投げる分のイトを引き出しておいて、手で投入。スプールからイトを引き出して送り込んでゆく。キハダが食ってくるとイトが走るので、10mほど出したあとに止めてから確実に竿を立てるとハリ掛かりする。
おろしステーキ
煮付け
キハダの旬は、春~初夏、そして秋~初冬の2回。身が締まっていて、タンパク質は生鮮食品ナンバーワン。かつ、低脂肪で低カロリー。DHA・EPAが豊富に含まれ、視力改善・脳細胞の活性化・中性脂肪の引き下げなど、多くの効果が期待される。また、鉄分も多く含んでいるため、貧血気味の若い女性には最適。優良な健康食品といえる。
肉色は美しいピンク系で、刺身や寿司ダネとして使われるが、メバチマグロに比べて脂が少ないので、あまり人気がない。しかし、脂の乗ったキハダはねっとりとしていて、とても美味であり、トロのような脂のあるマグロを好まない人には人気がある。
全般に、あっさりとしていて軽やかな味わいなので、カルパッチョやマリネにして、柑橘酢、オイル類、香辛料、唐辛子などを使うとよい。バターとの相性もよいので、ムニエルにしても美味。また、フライにも向いている。
おろしステーキは、好みの漬けダレで味を付けた切り身をフライパンで焼き、漬けダレとともに大根下ろしを乗せた一品。
また、目玉も捨てることなく煮付けなどに活用してみたい。DHAとコラーゲンたっぷりの栄養食で、食味も抜群だ。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)