タイ科の海水魚で、北海道南部以南の本州、四国、九州各地に分布する。奄美以南の南西諸島では本種は見られないものの、近種のミナミクロダイやナンヨウチヌ、オキナワチヌなどが棲息する。また、近縁種のキチヌ(キビレ)やヘダイは主に西日本に分布しているが、関東エリアでも釣ることができる。なお、関西から九州エリアでは、本種を「チヌ」と呼ぶ。
クロダイ(チヌ)【黒鯛】
- 分 類スズキ目タイ科クロダイ属
- 学 名Acanthopagrus schlegelii
- 英 名Japanese black porgy
- 別 名カイズ、チンチン、カワダイ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
体高のある典型的なタイ型の体形をしており、マダイよりも口吻(こうふん)が多少前方に突き出している。アゴの前方には上下それぞれ6本の犬歯状歯があり、その内側には3~5列の臼歯(きゅうし)状歯列が並んでいる。
体色はシルバーグレーに輝き、背中やヒレは黒灰色、エラブタの上部に黒斑があるのが特徴。キチヌは、尾ビレの下縁や腹ビレが黄色いことから区別できる。体長は3歳で25㎝前後、最大では60㎝以上に達する。
沿岸の水深約50mまでの比較的浅い岩礁エリア、および砂泥底の海域に棲息する。また、エサを求めて汽水域や河川内にまで入り込む個体も多い。
悪食の魚として知られ、エビやカニ、貝類、小魚などを丈夫な歯で噛み砕いて捕食する。また、クロダイは雑食性なので、釣りエサにはトウモロコシやスイカなども使われている。
クロダイは成長とともに性転換する魚で、通常は生後2年前後まではすべてがオスで、2~3歳の雌雄同体の時期を経てから、生後4年以降に大部分がメスになる。
産卵期は春~初夏。内湾の浅場で産み落とされた分離浮性の卵は、水温17度の場合で65~75時間後に孵化する。
クロダイは環境変化に対する適応能力に優れ、5~30度という幅広い水温で生存が可能。エサを捕食する適水温も13~23度なので、年間を通して釣ることができる。
なお、クロダイの寿命は10歳以上、ときには20歳にもおよぶといわれている。釣り人の間では、50㎝超の大物を敬意を込めて“年なし”と呼ぶ。
クロダイが捕食している主なエサ
【甲殻類】
サルエビやサイマキ、スジエビといったエビ類はクロダイの大好物。また、カニ類やボケジャコ、そして、写真のアナジャコなども捕食している。
【貝類】
クロダイは丈夫な歯を使って、殻の硬い貝類も噛み砕いて捕食する。とくに好物なのが、堤防のヘチに大量に張り付いている写真のイガイ(カラスガイ)やカキなどだ。
【多毛類】
クロダイは、イワイソメ(イワムシ)やゴカイといった多毛類もよく捕食している。地域によっては、汽水域に繁殖するフクロイソメ(イチヨセ)も好エサとなっている。
【その他】
雑食性のクロダイは、生活排水などに混じる人間の食べ物も口にしている。地域によっては、スイカやトウモロコシなどが、クロダイのエサとして使われているのだ。
日本各地の縄文遺跡からクロダイの骨の化石が多数出土されており、クロダイは古くから日本人に親しまれてきた魚であることが推測できる。
関西でクロダイをチヌと呼ぶのは、古来、大阪湾を「茅渟海(ちぬのうみ)」と呼び、ここにクロダイが数多く棲息していたためだとされている。さらに、紀州~房総では、小型のクロダイを“カイズ”と呼ぶが、これは三重県海津周辺での捕獲量が多いためにつけられた名とされる。
クロダイは全国各地に分布しているが、とくに瀬戸内海での魚影が濃く、広島湾だけで国内の20%ものクロダイが水揚げされている。
クロダイは、海釣りのターゲットの中でもトップを争う人気魚。磯や堤防、河口、イカダ、ボートなど釣り場のバリエーションが豊富で、さまざまな釣り方が楽しめる。下記に紹介したほかに、地域によって独自の釣法が数多く存在していることもクロダイ釣りの特徴だ。
【ウキフカセ釣り】
クロダイの一番基本的な釣り方がウキフカセ釣りだ。
波静かな堤防で釣る場合は、微妙なアタリ(魚が食付いた信号)を取りやすい棒ウキ仕掛けがお勧め。逆に、外海に面した磯場では円錐ウキ仕掛けが使いやすい。エサはオキアミが基本だが、イソメ類や練りエサなども使われる。
底ダナ(海底近くの層)狙いが基本となるので、釣りを開始するときにはウキ下(ウキから針までの長さ)の調整をきっちり行うことが大切。アタリは千差万別なので、ウキに少しでも動きがあれば積極的にアワセ(魚の口に針を掛ける)を入れたい。
【ダンゴ釣り】
付けエサ(釣り針に付けた餌)をダンゴエサで包んで投入するのがダンゴ釣り。紀州で考案された釣り方だが、エサ取り(対象以外の小魚)に強いとあって、現在では全国で人気の釣り方となっている。
タックルや仕掛けはウキフカセ釣りのものを流用できるが、ウキは非自立系のウキを使うとダンゴが海底まで到着したことを把握しやすくなる。また、ハリスも多少短めにしておくと、ダンゴを投入するときのライントラブルが少なくなる。
狙ったポイント(魚の居る場所)にダンゴを正確に投入しながら、徐々にクロダイを寄せていくのがこの釣りの基本スタイル。ダンゴが割れて付けエサが出た瞬間にアタリがあることが多いので、微妙なウキの変化を見逃さないようにしたい。
【フカセ釣り】
大型のクロダイは手ごわい相手だが、晩夏~初冬にかけて釣れる小型のクロダイ(チンチンやカイズ)なら、ビギナーでも比較的簡単に狙える。
渓流竿の先端にミチイトをセットし、ハリスの先端に「豆テンヤ」と呼ばれるオモリ付きのハリを結節したシンプルな仕掛けを使う。豆テンヤは市販品もあるが、丸カイズバリと小型の中通しオモリ、チメイトなどで自作も可能。付けエサは、フクロイソメやジャリメ、モエビなどの食いがいい。
この釣りでは、港内のスロープ付近や流れ込み、堤防の付け根といった浅場を中心に攻めるのが基本。潮に濁りが入っていることも必須条件だ。仕掛けをポイントに投入してオモリが着底したら、竿先を30㎝ほど持ち上げるように聞き上げてから、再び竿先を下げて誘いを入れていく。
【ヘチ釣り】
水深のある大型港や沖堤防では、付けエサを自然な状態で落とし込む釣りも人気。足場の低い堤防が多い関東エリアでは短竿を使った「ヘチ釣り」、逆に足場の高い場所が多い名古屋~関西では「前打ち」といった釣り方が行われている(仕掛け図はヘチ釣りの例)。
竿やリールは専用品を使うのが快適。ミチイトは逆光時でも見やすい蛍光ラインが使いやすいが、最近は感度に優れるPEラインを愛用する上級者もいる。
仕掛けは、ハリとガン玉(小さな玉状のオモリ)だけのシンプルな構成。水深や潮流の速さなどを考慮して、できるだけエサが自然に落ちるようにガン玉のサイズを調整したい。エサはイガイやカニ、イソメなどを使用する。
いずれも、付けエサを狙いのポイントにゆっくりと落とし込み、イトフケの変化でアタリを取っていくのが基本だ。
【カカリ釣り】
専用イカダやボートに乗って楽しむカカリ釣りは、繊細なアタリと豪快な引きを楽しめるのが魅力。
竿は、穂先の繊細な専用竿(イカダ竿)が使いやすい。リールは小型両軸リールとタイコリールの選択肢があるが、ビギナーには両軸リールが使いやすいだろう。オモリは、軽めならフカセ釣り状態になるし、重めを使えばミャク釣り状態になる。
付けエサを包んだダンゴを足元の海底に落とし込みながら、自分の周囲にクロダイをどんどん寄せていくのが、この釣りの醍醐味。ダンゴが割れて、その中にある付けエサが現れた瞬間にクロダイが食いつくというわけだ。
【ルアーフィッシング】
悪食のクロダイは、ルアーにも果敢にアタックしてくる。クロダイのルアーフィッシングの歴史は浅いが、シャローエリア(浅い所)でのポッピングやミノーイングを始めとして、小型ミノーにオモリをセットして海底を引いてくるボトムの釣り、ストラクチャー(岩や倒木などの障害物)まわりをバイブレーション(ルアーの一種)で攻める釣りなど、地域ごとにさまざまなテクニックが考案されている。
ロッドは専用品も登場しているが、バスロッドやシーバスロッドでも流用可能だ。ルアーは釣り場の状況や狙うレンジ、釣り方などで適宜使い分ける。
製品例
ポッパー
刺身
ムニエル
クロダイはしっかり活き締めをして持ち帰ることで、磯臭さも気にならずにおいしく食べることができる。
人気の料理方法としては、刺身や湯引き、塩焼き、ムニエルなどがある。ムニエルの作り方は、クロダイの身に塩コショウで下味をつけ、小麦粉をはたいてから両面を焼き上げる。残った焼き汁にバターを溶かし、ニンニク、しめじ、白ワインで味を整えたソースをかけて完成だ。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)