マダコ【真蛸】

マダコ【真蛸】 イラスト:小倉 隆典
  • 分 類タコ目マダコ科マダコ属
  • 学 名Octopus vulgaris
  • 英 名Common octopus
  • 別 名タコ

釣りシーズン ベストシーズン 釣れる

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

分類・分布

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タコの仲間は、世界中で約200種類が知られており、日本近海でも50種類以上が確認されている。タコというと海中を泳ぐというよりも、這って歩いたり岩陰に潜んでいたりというイメージがあるが、12科中、マダコ科のみが海底での生活に適応した体の構造をもつにすぎない。浮遊性のものも数多く、タコの仲間は海の表層から海底まで広い範囲に適応しているのである。
食用となり、産業的にも重要なのは、マダコ科に属するものに限られている。もっとも一般的なマダコ、体長3m・体重30㎏にもなるミズダコ、冬期に米粒状の卵が詰まりおいしい小型のイイダコ、腕がとくに長いテナガダコ、そして沖縄地方では普通に見られるワモンダコなどである。さらに、主な釣り相手となるのはマダコ、ミズダコ、イイダコの3種だ。
日本では、一般に「タコ」といえばマダコを指すほど、本種はタコ類の中心的存在である。世界各地の熱帯、温帯海域に広く分布しており、日本では太平洋側の三陸付近から南、日本海側では北陸から南の砂礫や岩礁域に棲息している。


特徴

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腕を含めた体長は60㎝前後。体はしなやかで、ある程度伸縮する。背面は微小な顆粒状の点によって網目状に覆われており、背中にはダイヤモンド形に配列した大きなイボがある。
体色は、赤褐色か黄褐色をしているが、腹側は淡色。皮膚には色素細胞がくまなく分布していて、興奮したときや、環境の状態によって、体色や突起の長さを数秒ほどで変えることができ、岩石や海藻に擬態する。
海の中で活発に動きまわるには、大量の酸素の供給が必要であるが、エラへの血液の出し入れを効率よくするため、エラの根元に小さなポンプを備えている。これを「エラ心臓」と呼び、器官が左右にあるので、本来の心臓と合わせて心臓が3個あることになる。
腕は8本とも外套長の2.5~3倍の長さがあり、断面は四角い。吸盤は2列で200個前後あり、オスには各腕の基部から15~19番目に大きな吸盤がある。また、オスの右第3腕は先端が変形した交接腕になっていて、外敵に襲われたときに捕らえられた腕を切り離して逃げ、その後再生される。まれに2本に分かれて再生されることがあり、8本以上の腕をもった個体が見つかることがある。


性質

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マダコは、引き潮で干上がってしまうような浅い所から、水深40mほどまでの砂泥地、岩礁域などに棲息している。魚と違ってあまり移動しないと思われがちだが、常磐地方沿岸では季節により北上、南下移動をする「渡りダコ・通りダコ」と呼ばれるマダコが見られる。
マダコは泳ぎがうまく、外套膜で水を押し出して前へ進む。体の柔らかさを活かして、岩のほんの小さな隙間にも潜り込んで身を隠す。
また、皮膚の色素細胞と特殊な筋肉を使い、周囲の環境に合わせて瞬時に色や模様、質感までも変化させて擬態することができる。敵に見つかると、スミを吐いて目をくらませ、その間に逃げる。スミには嗅覚を鈍らせる物質が含まれており、敵はマダコを追いかけることができなくなる。
一般的に夜行性で、食性は貪欲である。アサリなどの二枚貝は、吸盤で貝殻を引っ張って貝柱を引きちぎり、中の身を食べ、カニなどは8本の腕で包み込んだのち「チラミン」という毒素を分泌して弱らせてから捕食する。マダコは視覚と聴覚が優れていて、エサを獲るときには主に眼で見て、捕らえたエサを腕で触って確認し、味や触感を感じる神経が通っている吸盤で味わうといわれている。
繁殖期は春~初夏。交尾したメスは岩陰に潜み、長さ10㎝ほどの房状になった卵の塊をいくつもぶら下げるように産み付ける。この卵塊1㎝当たりに約100個の卵が含まれ、総産卵数は10万~20万個にもなるという。房状の卵は、藤の花のように見えるので「海藤花(かいとうげ)」と呼ばれ、煮物や吸い物、酢の物などに利用される。
卵は約25日で孵化するが、それまでの間、母ダコはその場を離れることなく、海水を吹きかけて新鮮な酸素を供給したり、ブラッシングによって卵の表面を掃除したりして、何も食べずに卵を守る。そして、卵の孵化が終了すると母ダコは死んでゆく。
孵化したばかりの稚ダコは、体長約3.5㎜。体がほぼ透明で、胴体部分が体の大部分を占めるが、体には色素胞があり、腕には吸盤もある。卵から泳ぎ出した稚ダコは、3~4週間の浮遊期ののちに海底に着底し、海底での生活に移行する。寿命は1~2年と考えられている。


文化・歴史

江戸末期の『私語私臆鈔』には、「タコは多股(たこ)からきている」とある。『和名抄』には、「海蛸子(かいしょうし:海のクモ)」と表されていたものが省略されて「蛸」一字でタコと呼ぶようになったと記している。ほかに、タコは手の多いことから手許多(てここら)といわれ、これが転訛して「タコ」となったなど、どの説でも姿形からの命名である。
タコ壺漁の歴史は古く、弥生時代の遺跡からもタコ壺が出土している。明石海峡は日本でもっともマダコが獲れるところで、6割方がタコ壺漁である。松尾芭蕉は明石を訪れ、タコ壷漁を見ながら次のような句を読んでいる。「たこ壺や はかなき夢を 夏の月(捕えられることも知らず海底の蛸壺から月を見上げるタコ。そのタコの運命を……)」。
明石では6~7月に獲れたタコは大変おいしく、麦が刈られ麦ワラができる頃に水揚げされるタコをとくに「麦わらダコ」と呼んでいる。前年の秋に生まれた小さなタコは、半年を経て育ち、夏に向かって6月頃から一斉に水揚げされる。明石のタコは、明石海峡の速い潮流が太いがっしりとした脚を育み、また、タコ自身の味に影響を与えるエサが豊富なところから歯応えと甘さが身上だが、「麦わらタコ」はそれに軟らかさがプラスされる。


釣り方

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初夏〜冬がマダコ釣りのシーズン。どっしりとした重量感のある手応えが、釣り人たちを魅了する。最近では珍しい手釣り道具を使い船で狙うことが多いマダコだが、関東以南の磯場や堤防などでも釣ることができる。ただし、マダコ釣りが禁止されている釣り場もあるので、事前に確認しておきたい。
釣り方は、カニやブタの脂身、魚の切り身などをテンヤ(針とオモリが一体になったエサを付けて使用する仕掛け)に縛った仕掛けで狙うのが一般的。また、現在ではマダコ専用に開発されたエギ(単体で使うイカ用のルアー)が数多く登場しており、ルアーフィッシングファンからも注目を集めている。

【テンヤ釣り】

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船からのテンヤ釣りは、マダコがおいしくなる真夏と暮れにハイシーズン(釣の盛期)を迎える。道具はレンタルも充実しているから、手ぶらでも出かけられるのが魅力だ。
タコテンヤはオモリが固定式のものと遊動式のものがあり、重さも40~80号と種類がある。船宿で購入するか、自前で用意する場合には事前に確認しておこう。エサは、主に中型のイシガニを使う。船宿によって、縦に縛る場合と横に縛る場合があるが、どちらにしても白い腹を上にするのが基本だ。
テンヤの投入は、木枠からイトを出しながら船下に落とし込むだけでよい。テンヤが着底したら、少しだけ余分にイトを出しておいてから小突き(海底をオモリでたたく)を開始する。底からテンヤを離さず小さく小突き、重みを感じたら5~8秒待ち、大きくアワセを入れてイトを緩めずにたぐる。取り込みの際には、タコが船べりにへばり付かれないように、大きく手を伸ばし、船べりから離して取り込もう。

製品例
タコテンヤ

【エギング】

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エギングはアオリイカなどに使われる釣法だが、マダコにも応用できる。この場合、イカ釣り用のエギのカンナ(針)部が、テンヤのカンナになっているタコ専用エギに、さらにオモリを付けて使うのが基本だが、一般的なエギにオモリを付けたものでもよい。オモリは5号程度のナス型を使う。ロッド(釣り竿)は、8~9フィート(1フィート:約30㎝)で少し硬めのエギング専用ロッドがよいが、シーバスロッドでも流用可能だ。
釣り方は、仕掛けを沖に軽くキャスト(投げる)し、エギが着底するまでミチイト(リールに巻かれた糸)を出す。マダコのエギングは、イカ狙いのようにエギをシャクら(魚を誘う為に竿をしゃくりあげる動作)ず、海底をズル引き(海底を引きずって来る)するのが基本。エギが海底から浮かないように注意しながら、投入点からゆっくりと手前に引く。アタリ(魚が食付いた信号)がない場合は、ときどき竿先を左右に振ったり、少しシャクったりしてからフォール(沈める)させ、強くアピールするとよい。

【タコジグ】

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水深のある防波堤などで、主に足元を攻めるときによく使われる仕掛け。チョイ投げ(軽く投げる)でも使用できる。
タコ釣りのロッド(釣り竿)を選ぶ場合、操作上、あまり長いものは扱いづらい。また、海底や壁にへばり付いたマダコを引き剥がすこと、重量のある仕掛けを操作することを考慮すると、オフショアロッド(船からの大物用ルアー竿)や青物用の8~10フィートほどのパワフル(反発力の強い)なロッドが扱いやすい。
タコジグは重さ30~40g程度で、これを一個、または2〜3個を連結して使用する。
仕掛けを防波堤の壁スレスレに落とし込み、底に着いたらゆっくりと竿先を上げて、またゆっくりと下ろす。この操作を繰り返してアタリを待つ。アタリがなければ、移動しながら同じ動作を繰り返す。
アタリは根掛かりしたように重くなるので、マダコが岸壁にへばり付かないように、一気に巻き上げる。タコジグもテンヤと同様、基本的にハリに返しが付いていないので、バレ(針から外れる)ないようにラインテンション(糸の張り)は張ったままで引き寄せよう。

製品例
タコジグ


料理

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湯引き

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タコ飯

マダコは高タンパク低カロリーで、ビタミンやミネラルもバランスよく含み、動脈硬化や心臓病の予防、肝臓の働きを助け、疲労回復や視力回復の効果があり、ウマミ成分でもあるタウリンが多く含まれている。
釣り上げたマダコを締める場合は、目と目の間にナイフやイカ締めピックを突き刺す。体色がサッと変わればOKだ。もっと簡単なのは、タコの胴体(頭のような部分)と足の部分の隙間に指先を入れて切り離してしまう締め方だ。さらに胴体を裏返し、内臓を取ってしまえば完璧である。
下ごしらえは、内臓と目、くちばしを取り除き、粗塩を使って塩揉みを行う。ヌメリが取れるまでしっかりやることがおいしく食べるコツだ。塩もみ後の水洗いもていねいに。手を抜くと、茹でたときにお湯に塩が溶け出してしょっぱくなるので注意しよう。茹でるときは足の先からゆっくり沈め、1㎏までのタコならば2~3分が茹で時間の目安である。
湯引きの場合、生のマダコの足は、柳刃包丁などを使って吸盤の部分を切り取る。身と皮の間に包丁の刃先を入れ、身を転がすようにして皮をむき、薄くそぎ切りにする。沸騰した湯にサッと泳がせ、氷水に入れ熱を取る。水気を拭いて、盛りつける。
タコ飯は、ぶつ切りにしたマダコ、千切りのニンジンと油揚げ、さきがけにしたゴボウ、醤油・酒・塩、そしてお米を入れて水加減を調節して炊飯器で炊く。

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

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