ヒラメ【鮃、平目、比目魚】

ヒラメ【鮃、平目、比目魚】 イラスト:小倉 隆典
  • 分 類カレイ目ヒラメ科ヒラメ属
  • 学 名Paralichthys olivaceus
  • 英 名Bastard halibut
  • 別 名オオグチガレイ、テックイ、エテガレイなど

釣りシーズン ベストシーズン 釣れる

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

分類・分布

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ヒラメ科の魚は、世界で80種ほどが知られている。いずれも、腹側を下にしたときに目が体の左側にくる一群で、右側に目のあるカレイ類と区別され、俗に「左ヒラメに右カレイ」という。ただし、左側に目をもつカレイも存在するので、頭部の左側に目があるすべての種がヒラメというわけではない。また、カレイ類に比べて口と歯が大きいのが特徴で、ヒラメ類のことを英語でLarge-tooth floundersという。
本種のヒラメは、千島列島、樺太、日本、朝鮮半島などの沿岸から南シナ海まで分布し、最大で全長1m、体重10㎏ほどになる。


特徴

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体は薄く、楕円形。魚類分類法でいうと側扁形(compressiform)となる。カツオ、サバ、ブリ、マグロ類などが紡錘形なのに対し、側扁形の魚は背腹の方向に高くなり、左右に薄くなった体形になっている。ただし、ヒラメの場合は側扁した体の片側に両眼がついており,それに伴って頭蓋骨もねじれている「異体類」と呼ばれる特異な体形である。
尾ビレは、背ビレや尻ビレから明瞭に分離しており、尾ビレ後縁の中央部は突出する二重截形(にじゅうせっけい)である。
口は著しく大きく、上顎骨の後端は眼の後辺下よりも後方に達し、大きく開く。両アゴの歯は犬歯状で強く、1列に並ぶ。両眼の間は平坦で、その幅は大よそ眼径の1/2の大きさ。側線は胸ビレの背方で大きく波状に曲がる。ウロコは小さく、有眼側で櫛鱗(しつりん:ウロコの後部に棘(きょく)がある)、無眼側で円鱗(えんりん:棘がない)である。有眼側の地色は暗褐色で、乳白色の小斑紋と黒褐色紋が散在する。


性質

冬は沖合の水深100~200mの深いところに棲息するが、春になると岸近くの水深20~50mに移動し、潮の流れがある砂泥底、砂礫底、岩礁域で産卵する。産卵期は本州の中部以南では2~5月で、北へいくほど遅い。
卵は、直径1㎜前後の分離浮遊性卵で、15℃ほどの水温では約60時間後に孵化する。孵化仔魚は全長2㎜前後で浮遊する。孵化後、10日ほどすると頭後部背面に突起が出現し、3週間後には5本の長い背鰭軟条(せびれなんじょう)となる。
体長10㎜前後で右眼が左へ移動を始め、約12㎜で頭部背面に達する。体長13㎜くらいで眼の移動を終え、伸長していた背ビレは短くなり、25㎜ほどになると親と同じ形になる。眼の移動を終える少し前に、底棲生活を始め、河口域の細かい砂地に多く見られるようになる。
成長スピードは非常に早く、1年で体長約20~30㎝、3年で40~50㎝、5年で60~70㎝になる。肉食性で、稚魚は主としてアミ類を食べているが、体長数㎝に成長するとカタクチイワシなどの幼魚を捕食するようになり、若魚や成魚になると魚類、イカ類、甲殻類などを好むようになる。
ヒラメは完全なる夜行性とはいえないまでも、夜間に積極的に捕食活動を行う。夜間は自分のテリトリー周辺を滑るように海底ギリギリを泳ぎ、海底で寝ている魚を襲って捕食する。日中は、砂地の海底なら砂を被り、岩礁の海底なら岩の表面に張りつくようにしている。海底にカモフラージュして潜み、目の前を通過しようとする魚を襲う。
ヒラメは海底でじっとしているため、動きが鈍いという印象を受けがちだが、エサを捕食する際の動きは非常に俊敏だ。また、泳ぎ方も特徴的で、尾ビレを上下に振ってドルフィンキックで泳ぐ。おもしろいのは、胸ビレを背ビレのように立て、背ビレの役をさせて泳ぐことだ。
カモフラージュはじつに巧みで、海底の砂や岩礁の色に体色を変化させる。岩礁帯では、そこに付着する海藻の色もきちんと判断して、白い砂に黒い砂が混じっているような場所でも、見分けがつかないくらい巧妙に真似することができ、完全に周囲環境に紛れてしまう。


文化・歴史

ヒラメは、「平目」「比目魚」と表記されることも多いが、その語源は、平たい体に眼がふたつ並んでいることから「平目」の意味とする説。同様に、片平に眼が並んでいる魚なので、「比目魚」の意味とする説などがある。しかし、古語では「平らなさま」を「ひらめ」というため、そのまま「平らな魚」で「ひらめ」。また、ヒラメの「メ」は「ヤマメ」や「アイナメ」などと同じく、「魚」を意味する「メ」で「平らなメ(魚)」からきているとも考えられる。
地方名は、「カレ」「オオクチガレイ」「ソゲ」「オオクチ」「テックイ」「ハス」「オオガレイ」「メビキ」「ホンガレイ」など、数多い。また、青森県、茨城県、鳥取県の県の魚に指定されている。
カレイよりも成長が早いこと、および、海底で静止していることが多いため、さほど酸素を必要とせず、海水を汚さないことから養殖が盛んな魚である。
資源保護のため、ある大きさに達しない個体は再放流したり、稚魚放流も行われているヒラメだが、養殖物を含め、稚魚放流されたヒラメは成長しても腹側の黒い紋様が消えず「パンダビラメ」と呼ばれる。黒い紋様は、ときに表やヒレなどにも現れるので、養殖・天然を見分ける決め手になる。食味においては、天然物と差異はないが、天然物を尊重する市場では養殖物は安価で取引されていれる。


釣り方

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最高のグルメ度、希少価値、スリリングな釣趣と、ヒラメは数多い釣魚のなかでもとくに釣り人の心を熱くとらえる人気のターゲット(対象魚)。船釣りでは秋~翌年の初夏にかけてが好シーズン。防波堤や砂浜からは、通年釣りが可能だ。

【泳がせ釣り】

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活きイワシの泳がせ釣りは、アワセ(魚の口に針を掛ける)のタイミングが難しく、それだけにフッキング(魚の口に針が掛かる)が決まったときには最高にうれしい。
ロッド(釣り竿)は、魚を掛けたとき胴に乗る(釣り竿の真ん中位から曲がる)タイプのものがよく、ヒラメ専用竿がベスト。仕掛けは、捨てオモリ式(底に仕掛けが引っ掛ってもオモリだけが切れる)の胴付き(一番下にオモリを付ける仕掛)仕様で、ハリ掛かりの率を向上させるために孫バリ(通常の針を結んだ先に付ける補助の為の針)を装着するのが一般的だ。孫バリは、親バリ(通常仕掛けに結ぶ針)と同サイズか、ワンランク小さめを使うのがセオリー。図は標準的な固定式の仕掛け(ハリスの位置が固定された仕掛け)だが、イワシの泳ぎを優先させるために遊動仕掛け(ハリスの位置を移動できる仕掛け)を使う人も多い。
釣り方は、仕掛けを着底させたら1mほど底を切り(オモリを底から上げる)、マメに底取り(オモリを底につけて底を確認する)をしながらアタリ(魚が食付いた信号)を待つ。アタリは竿先をガクガクと揺らすので、ここで早アワセ(アタリに対して直ぐにあわせる事)をせず、徐々に竿先を送り込むのがコツ。徐々に大きな引き込みがきたら、ゆっくりと竿を立ててハリ掛かりさせよう。

【落とし込み釣り】

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落とし込み釣りとは、簡単にいうと大物の食わせサビキ釣りである。ヒラメは、アジやイワシなどの小魚の群れを狙って、その下に潜むか回遊している。小魚の反応があるところで、太ハリスのサビキ仕掛け(擬餌針が多数付いた仕掛け)を下ろし、まず小魚をハリ掛かりさせたら、そのまま仕掛けを下層に送り込み、エサを待ち構えている大物に食わせるという合理的な釣りだ。ハリに掛かったばかりの小魚はよく動くのでアピール度が高い。ほかに狙えるターゲットは、ヒラマサ、ブリ、カンパチ、ワラサ、サワラ、タイ、ハタなどの根魚と高級魚ばかりだ。
竿は、オモリ負荷(釣り竿に適したオモリの大きさ)80号くらいで胴調子(釣り竿の真ん中位から曲がる)のムーチングロッド(活きエサの食い込みの良い真ん中付近から曲がる竿)がいい。以前は3m前後が主流だったが、現在は1.8~2.5mの竿が人気だ。リールは、引きを楽しみたいなら手巻きリールでもよいが、水深40~80mくらいまで狙うので、PEライン(ポリエチレン素材の糸)4~6号が300mほど巻けるサイズの中型電動リール(電気モーターで巻き上げるリール)がお勧め。クッションゴム(ハリス切れを防ぐ為のゴムクッション)の代わりに、フロロカーボン14~16号を3~6m、リーダー(道糸の先に結ぶ太い糸)として付ける場合もある。

【ルアーフィッシング】

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サーフ(海岸)などからの岸釣りで人気なのが、ルアーフィッシング。
現在は専用ロッドも発売されているが、シーバス用のロッドを流用することも十分にできる。ライン(釣り糸)は、遠投に有利なPEライン(ポリエチレン素材の釣り糸)がお勧め。
ルアーは、イワシやシロギスなどをイメージした9~13㎝のフローティングミノー(水に浮く小魚型ルアー)、3インチ前後のワーム(軟質プラスティック製のルアー)が基本だ。また、遠くのポイント(魚の居る場所)を狙うときには、1オンス(1オンス:約28g)前後のメタルジグ(鉛などの金属製のルアー)も有効だ。
サーフからのヒラメ釣りのポイントは、エサとなる小魚が集まりやすい沈み根(水面から見えない海底にある岩など)周辺や潮の払い出しなど。釣り方は、スロー(ゆっくり)のタダ巻き(リールを一定に巻く)で誘うのが基本だ。波が穏やかなときには足元でのヒット(ルアーに食付く)もあるので、最後まで油断は禁物。時間的には朝夕のまづめどき(日の出前、日没後の薄明るい時間)が有利といわれるが、エサの小魚が豊富なポイントでは日中でも十分釣りになる。

製品例
メタルジグ


料理

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刺身

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ムニエル

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アラ煮

ヒラメは春先に産卵期を迎えるため、冬に栄養を蓄える。この時期には「寒ビラメ」と呼ばれて、とてもおいしく食べられる。また、背ビレと腹ビレの付け根の部分の身は「縁側」と呼ばれる脂ののった歯応えのある部位で珍重される。ヒラメはアミノ酸組成のバランスがよく、良質なタンパク質を含んでいる。ビタミン類では、エネルギー代謝を促進するナイアシンが多い。また、縁側は脂肪分に富み、コラーゲンが含まれている。美容食としてもお勧めだ。
調理の際は、その特殊な体形から三枚おろしではなく、「五枚おろし」、あるいは「七枚おろし」にする。五枚おろしとは、上身背、腹、下身背、腹、骨の5つに分けたものをいい、七枚おろしはさらに背と腹の縁側を別にしたものをいう。
刺身は、ヒラメは五枚におろし、縁側の部分を切り取り、皮を引く。刺身包丁を使って薄くそぎ切りにし、皿に盛りつける。縁側の部分も皮を引いて、切り分けて盛る。甘味と程よい脂ののりが最高においしい。ワサビ醤油だとヒラメのウマミが消えてしまうため、ポン酢とアサツキ、もみじおろしで食べるのがお勧めだ。
また、バターを使った洋風料理にも最適で、火を通すと身が程よく締まるので、ムニエル、グラタン、フライなども大変美味。ムニエルにする場合、ヒラメは食べやすい大きさに切り、塩・コショウを振る。しばらくおいてから、水気を拭き、小麦を薄くはたき、フライパンで焼く。残った焼き汁に醤油・バター・レモン汁を入れてソースを作り、ヒラメにかける。
アラはアラ煮にするといい。ヒラメのアラは、よく水洗いしてエラや血合いを取り除いておく。鍋に醤油・ミリン・日本酒・薄切りにしたショウガを入れて煮立ててからアラを入れる。落としブタをして、15分ほど煮る。エラのまわりや中骨の間の身を無駄なくいただける。

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

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