クエ【九絵、垢穢】

クエ【九絵、垢穢】 イラスト:小倉 隆典
  • 分 類スズキ目ハタ科マハタ属
  • 学 名Epinephelus bruneus
  • 英 名Longtooth grouper
  • 別 名モロコ、マス、クエマス、アオナなど

釣りシーズン ベストシーズン 釣れる

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

分類・分布

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クエは、スズキ目ハタ科に属する海水魚の1種である。ハタ科は魚種が多様なグループであり、世界中の温帯から熱帯の海に広く棲息している。世界で64属475種が記録されており、日本だけでも30属129種もいる。クエの属するマハタ属だけで、日本産に限っても41種もいるほどだ。
クエは、関東から西、南紀や四国、九州、東シナ海に分布している。


特徴

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成魚は、平均して全長60㎝ほど。しかし、まれに全長2m、150㎏前後に達する個体もいる。日本産のハタ類としては、タマカイ、マハタ、コクハンアラ、カスリハタ、オオスジハタなどと並ぶ大型根魚の代表格である。
体色は淡い緑褐色で、体には6本の黒っぽい横縞模様があるが、前方のものほど傾斜するのが特徴である。体のどこにも暗色円斑はない。幼魚は体色が黒く、白っぽい明瞭な縞模様がよく目立つが、成長するにつれ模様が不明瞭になる。老成すると体全体が一様に暗色になり、目立った斑紋はなくなってしまう。
大型個体はマハタやハタモドキとも似るが、尾ビレ先端が白くないこと、また、体がやや細長いことで区別できる。


性質

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クエは、外洋に面した水深50mくらいまでの潮通しのよい沿岸の岩礁域に棲息している。
日中は岩礁の巣穴の中に隠れ、夜間にエサを探し求めて活発に活動するといわれているが、実際には水槽観察などで薄暮型だとされている。また、浅海の磯では群れを作らず、単独行動をしているクエの観察がよく行われているが、深い魚礁に大きなクエが数十尾群がっていたという記録もある。
クエは遊泳力には優れず、エサが豊富な場所に居座り、岩礁域に棲む生物を捕食する。ムロアジ、メジナ、タカベなどの魚類のほか、イカ類やイセエビなどの大型甲殻類も、大きな口で吸い込むようにひと飲みにする。
産卵期は6月頃で、1尾当たりの産卵数は数百万にもなる。クエは、卵から孵化したときの大きさがマダイやヒラメなどの一般的な魚に比べて2/3程度と小さいが、 1歳で20㎝、2歳で40㎝・約1kgになる。幼魚は成魚とは形態が異なり、第2背ビレ棘と腹ビレ棘が長く、また前鰓蓋骨のすみにも長い1棘がある。これらの棘は、成長につれて目立たなくなる。
ハタの仲間は性転換することが知られているが、クエも小さいときにはメスで、10歳以上になるとオスになる雌性先熟の性転換魚である。


文化・歴史

クエは食用魚としての価値が非常に高く、現在では養殖も行われている。近畿大学が和歌山県で養殖と研究を行っているほか、長崎県や佐賀県などでは沿岸のイケスを利用した養殖を行っている。また、近年、東海農政局による海洋深層水を使った閉鎖循環式陸上養殖施設での養殖が、三重県尾鷲市などで試みられている。
静岡県温水利用研究センターでは、クエの完全養殖を成功させており、地元御前崎市の特産品として売り出している。クエは水温が低いと成長が止まるため、浜岡原発の蒸気冷却に使われた温排水を利用し、成長を促進させている。
クエの名は、古く967年に施行された『延喜式(平安時代中期に編纂された律令の施行細則)』にその名が見える。また1982年に出版された『新釈魚名考』のなかで、榮川省造は、老生魚は全体に暗褐色の薄汚い体色をしているので「垢穢=クエ」の名で呼ばれているのであろう、としている。そのほか、クエの由来としては、若魚の体に不規則な数条の紋があるので「九絵」という説もある。
九州では地方名で「アラ」と呼ばれるが、同じハタ科に属するアラとは別種である。ほかの地方名としてモロコ(西日本各地)、マス(愛知)、クエマス(三重)、アオナ(四国)などもある。


釣り方

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クエは、釣り人の間ではイシダイ以上に幻の魚といわれ、10年通っても1本もキャッチすることができないといわれているほどである。秋~冬にかけてがシーズンだが、ほぼ周年狙うことができ、磯釣りのほか、船からの泳がせ釣りやジギングでも狙うことができる。ハリ掛かりしたあと、比類のないほど強烈な引きをみせるため、大物釣りのターゲットとしての人気が高い。

【磯釣り】

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クエは、磯の底物師にとって最高峰の巨魚である。釣り場となる磯は、潮がぶつかる側よりも、湾状になった潮裏のよどみや溝、下部がえぐれるようにオーバーハングした岩礁域、それに急傾斜して水深のある底付近などが好ポイントとなる。昼間でも釣れるが、夕方から夜にかけてが狙いどきだ。
使用する竿は、長過ぎると魚に振り回されてしまうし、逆に短いと磯ぎわでのやりとりが不利になる。加えて強靭な反発力、ピトンへのセッティングが可能な形状の石突き、頑丈な造りのリールシートなどが不可欠だ。仕掛けは捨てオモリ式の底物仕様とし、付けエサは活きたムロアジを背掛けなどで使う。
磯釣りでは、コマセが重要だ。ポイントに入ったら、カツオのワタ、冷凍サバやカタクチイワシのブツ切りなどを真っ先に撒く。ウツボなどにエサを取られることも多いので、15~20分おきに巻き上げて付けエサをチェックし、根気よくアタリを待とう。竿が力強く引き込まれたら、全力で竿を起こしリーリングをする。

【沖釣り】

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磯釣りは危険が伴うためにある程度の経験が必要だが、船釣りなら初心者でもチャレンジできる。クエを専門に狙う船宿はないため、大物狙いの遠征便に乗船するのが一般的だ。
図の左は遊動式、右は胴付き仕掛け(一番下にオモリを付ける仕掛)の例。竿は、やや先調子でエサの食い込みがよく、テンションを竿全体で受け止めてくれるものが理想だ。エサは、サバやソウダガツオの死にエサの1尾掛けか、ムロアジ、アカイカの活きエサがよい。
手持ちで狙うベテランもいるが、そのパワーゆえ、置き竿のウィンチスタイルで狙うのが一般的である。オモリが着底したらすぐに底ダチを切る(一番下にオモリを付ける仕掛)ことが大切。狙う場所が荒い岩礁帯なので、のんびりしていると根掛かり(海底の障害物に針、オモリが引っかかる)してしまう。タナは底から3~5mが目安だ。
エサのムロアジが暴れる前アタリがあるが、ここで焦ってアワセてはいけない。しっかりと食い込ませ、ロッドが絞り込まれるまで待つのが鉄則。必要以上にドラグを緩めて走らせると、根ズレでハリスを切られてしまうので注意したい。
ハリ掛かりと同時に全力で根から引き離し、一度浮かせてしまえばひと安心だ。

【ルアー釣り】

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ジギング(メタルジグを使用したルアー釣り)の場合、使用するタックルは5~6フィートの軽めのジギングロッドに、大型のスピニング、またはベイトリールの組み合わせ。ラインは平均でPE5号、場合によってはPE6号を使用を最低でも400m巻いておく。ジグのフックはアシストフック(針掛りをよくするため追加で取り付ける針)のみがお勧めだ。通常より大きめの軸が太いフックがよい。
ジグを海底まで沈めたら、アクションを加えつつ海底から30mくらいまで上げてくる。海底付近でヒットするときもあれば、ある程度巻き上げてからヒットする場合もある。どのタナでヒットするか分からないので、探りながらヒットを誘おう。
クエは、ヒットした瞬間、想像を絶する強烈な瞬発力を発揮して底の岩場に突っ込むので、そのダッシュを止められるかで勝負が決まる。底に潜られれば、根にラインが擦れて切られてしまうので油断大敵だ。

■製品例
メタルジグ

■詳しい釣り方解説
これから始める完全ジギング入門(船釣り)


料理

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クエは、ハタ類のなかではもっとも美味といわれている超高級魚。旬は、産卵期を除いた秋~春。大きいものほどおいしいといわれる。
クエといえば鍋が有名。皮がゼラチン質で、頭部に濃厚なうまみがあり、身は適度に締まりホクホクとしている。また、刺身(写真)は血合いが美しく、淡白でありながら優しいウマミがあり非常に美味。ほか、照り焼きや蒸し物、フライ、ソテー、雑炊など、さまざまな料理でおいしく食べられる。

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

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