ハタ科アラ属の現生種は本種のアラのみで、かつてはスズキ科に分類されていたが、『Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition』(2002)ではハタ科に含められた。
本種は朝鮮半島南部や中国、フィリピンなどの温帯の広い海域に分布しており、日本列島周辺では茨城以南の太平洋沿岸から新潟以南の日本海沿岸に棲息している。
九州では、本種のほかにマハタやクエなどの大型のハタ類も「アラ」と呼ぶことがあり、混同されやすいが、まったく別の魚である。また、ニュージーランドから「アラ」として入荷するものは「ミナミオオスズキ」であり、本種とは別種である。
アラ【?】
- 分 類スズキ目ハタ科アラ属
- 学 名Niphon spinosus
- 英 名Sawedged perch
- 別 名アオアラ、ホタ、オキスズキ、イカケ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
ハタ科としては体が細長く、スズキに似た体形でやや側扁する。ウロコが非常に小さく、体色は背側が灰色がかった茶褐色で、腹側は白い。吻(ふん)部は尖っており、口は大きく、下アゴは上アゴよりも突出している。
主鰓蓋(さいがい)骨の後端には3本の棘があり、前鰓蓋骨の後縁には鋸歯(のこぎりば)と1本の大きな棘がある。背ビレは2基で13棘。尾ビレは、後縁がやや内側に切れ込み、後縁の先端部はわずかに色が薄い。
幼魚は、体側に暗褐色の縦帯があり、背ビレ軟条部の前部、および尾ビレにふたつの大きな黒斑があるが、これらは成長するにつれて不明瞭になる。
成魚の全長は80㎝、大きいものだと1mを超えるものもいる。幼魚は浅海に棲息するが、成長とともに水深100~300mの深所に移る。砂泥域を好むが、とくに大型の個体は岩礁のきわや砂地に岩礁が散在する場所に集まる。肉食性で、主に底棲の無脊椎動物、イカ類、魚類などを捕食する。
産卵期は7~8月。この時期になると生殖器官が著しく増大し、オスの精巣とメスの卵巣がそれぞれ通常の2~3倍にも膨れ上がる。卵は分離浮遊卵で、20~100万粒に達するのではないかと考えられている。
季節的な回遊は行わず、周年同じ場所に棲息するとみられている。
アラの成魚は主に釣りで、若魚は底曳縄で漁獲され、市場へ出荷される。成魚はあまり獲れず入荷量が少ないため、高級魚であるにも関わらず意外と知名度は低い。
アラの語源は、この魚の荒々しい習性と外貌などによるものと考えられており、和字も魚篇に「荒」を当てている。しかし、『大言海』(大槻文彦著、1932~1937年刊)には、「その語源知られず」とあり、ほかの文献にも語源に触れたものはない。
江戸前期の食物本草書である『本朝食鑑』には、「当今、全国どこでも獲れ、最も下品なものである」とあり、江戸時代には多く市中に出回っていたと考えられている。
地方によっては、「クエ」を「アラ」、「マハタ」を「クエ」と呼ぶなど非常に紛らわしい。「アラ」「クエ」「マハタ」の主な地方名をまとめると、以下のようになる。アラは、関東地方・大阪では標準和名通り「アラ」、高知では「オオスズキ」、長崎では「タラ」。クエは、関東地方・大阪・高知では標準和名通り「クエ」、長崎では「アラ」。マハタは、関東地方では標準和名通り「マハタ」、大阪では「マス」、高知では「クエ」、長崎では「アラ」となる。
深い底から激しく竿を絞り込むアラは、底棲魚のなかではトップクラスのパワーの持ち主。夢の10kgオーバーを求めて、通い詰める釣り人も多い。
アラは、船釣りで狙うのが一般的。深くて狭いスポットにある程度の群れが寄るため胴付き仕掛けが多用されているが、関東ではテンビン仕掛けが主流となっている。また、近年ではジギング(メタルジグを使用したルアー釣り)の対象魚としても人気だ。
【深海釣り(胴付き仕掛け)】
竿は、7:3調子のものが使いやすい。リールは、ミチイトが500~600m巻ける電動リールを使う。水深200~300mを狙うことが多いため、オモリは200~250号を使用する。重さは、釣り場によって使い分けよう。ミチイトと幹イトの間に、50~60号の中オモリや小型の水中ライトを付けるケースもあるので用意しておくことをお勧めする。サルカンは、松葉サルカンのほうがヨレが少ないが、通常のサルカンでもとくに問題はない。
釣り方は、仕掛けを一気に海底まで送り、着底したらイトを3mほど余分にくり出して仕掛けを這わせるようにする。船が潮に流されてイトが張ったら、そのまま仕掛けを流す。ある程度流したら少しラインを巻き取ってオモリを浮かせ、イトが立ったら再び沈めて仕掛けをたるませる。この繰り返しだ。
【深海釣り(テンビン仕掛け)】
相模湾などでは、片テンビン仕掛けの2本バリが主流。竿、リール、ミチイトは、胴付き仕掛けと同様でOKだ。テンビンは、60㎝長の大型片テンビンを使用する。場所によっては、1本バリで狙うケースもあるので、用意するオモリや仕掛けなどは、あらかじめ船宿に問い合わせておくと安心だ。エサは、イカ、サンマ、サバなどの切り身。ヒイカの1杯掛けならよりベターだ。
テンビン仕掛けの釣りでは、オモリが着底したら仕掛けを1mほど巻き上げる。スローに誘い上げたら、やや早めに竿を下げて数秒程度アタリを待つ。アタリは、竿を下げてエサがユラユラと沈むときにくるケースが多い。
アラ炊き
アラの旬は、脂が乗る冬。しっかりとした身質の白身は、脂が乗ってもくどくならず美味。とくに、刺身の味わいは最上級。2~3日ほど冷蔵庫で寝かせたほうがまろやかさが出て、ウマミが増す。また、鍋料理の材料としても優れており「ちゃんこ鍋ならアラ」といわれるほどだ。焼き物なら、シンプルに塩焼き、幽庵焼きにしても美味。その他、ポワレ、フライ、唐揚げなど、幅広い調理法でおいしくいただける。
「アラ炊き」は、アラの身に熱湯をまわしかけ、氷水に入れてウロコなどを取り除く。鍋に醤油、ミリン、酒、砂糖、水、ショウガを入れて火にかけ、煮立ったらアラと好みの野菜を入れて落とし蓋をして煮る。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)