ハゼの仲間は非常に種類が多く、現在では魚類の8%、およそ2,200種が確認されている。そのなかで、日本人にとってもっとも親しみのある種が、本種のマハゼである。
マハゼは北海道から種子島まで分布し、国外では朝鮮半島と中国の沿海地方に棲息。近年はアメリカ・カリフォルニアやオーストラリア・シドニーにも定着しているが、これは船舶のバラスト水などによって運ばれたものと考えられている。
東京湾では昔から江戸前の魚としてポピュラーだが、水質が悪化した昭和40年代には一時期、その数を減らした。現在では数が増えたとはいえ、干潟の消失などにより、かつての状態とはほど遠いといわれる。
ハゼ(マハゼ)【真沙魚、真鯊】
- 分 類スズキ目ハゼ科ハゼ属
- 学 名Acanthogobius flavimanus
- 英 名Yellowfin goby
- 別 名カジカ、カワギス、グズ、ゴズほか
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
体形は細長い円筒形で、比較的頭が大きく、その上に目が付いている。口は大きく、上アゴが下アゴよりも少しだけ出ている。体色は淡い茶褐色で、体側の中央に暗褐色の斑点が不規則に並んでいる。腹側は白く、鈍い光沢がある。全長は成魚で15㎝ほどだが、最大で25㎝以上になる個体もいる。
同属で、よく似た種にアシシロハゼがいるが、マハゼのほうが頭部が大きく、第1背ビレの後端に黒色斑がひとつあることで区別できる。また、茨城県・新潟県以南から種子島まで棲息するウロハゼは、下アゴが突出していることやウロコが大きいことなどで区別できる。
なお、マハゼ釣りのゲストとして釣れる「ダボハゼ」は、主にヌマチチブのことである。同じような体形をしているが、体色は暗色で、全体に白い斑点がある。
内湾や汽水域に棲息し、夏になると河川の下流部や干潟に未成魚が入ってくる。砂泥底を好み、多毛類、甲殻類、貝類、小魚に加え、アオノリなどの藻類をエサとする。
産卵期は1~5月で、南の地方ほど早くなる。内湾や汽水域の水深10m程度のところで、泥底、砂泥底にオスが長さ1m以上にもなるY字形の穴を掘り、その内壁にメスが産卵する。東京湾では、柔らかいヘドロ底にも巣穴を作ることがある。卵は2㎜ほどの長円形をしており、穴の天井からぶら下がるように産みつけられる。オスは産卵が終わったあとも、卵を守るために孵化するまで巣に残る。
孵化したばかりの仔魚は、全長5㎜程度。浮遊生活をして、体長15~20㎜に成長すると底棲生活に入る。全長40㎜程度までの未成魚は河口部近くの浅場で生活し、プランクトンを主なエサとする。水質が悪い場所にも対応し、都市部の運河などにも棲息する。当歳魚であるこの頃のマハゼは、「デキハゼ」と呼ばれる。
9月頃に体長10㎝を超えると、「彼岸ハゼ」と呼ばれるようになる。成長とともに海の近くへと移動し、晩秋~冬になると沿岸の深場に生活の場を移す。釣り人から「落ちハゼ」「ケタハゼ」と呼ばれる時期だ。
通常、マハゼは1年で成熟し、産卵して生涯を終えるが、2年で成熟する成長の遅い群が存在する。死なずに年を越した大型の個体は「ヒネハゼ」と呼ばれ、翌年の夏に浅場で釣られ、釣り人を驚かせる。
漢字では「真沙魚」もしくは「真鯊」と表されるが、ハゼを表す漢字には「沙魚」「鯊」以外に「蝦虎魚」「弾塗魚」「破世」「沙溝魚」などが当てられる。
古語では濁点のない「はせ」と呼ばれていたとされるが、この語源は陰茎(おはせ、はせ、はせお)であり、陰茎に似た魚であることを表している。ほかに、素早く水中を駆けるように泳ぐ魚、「馳せ」が語源とする説などもある。
食用としても、釣りの対象魚としてもポピュラーなだけあって、さまざまな地方名がある。「カジカ(宮城)」「カワギス(信越地方)」「グズ(北陸地方)」「フユハゼ(浜名湖)」「カマゴツ(鳥取)」「ゴズ(島根)」「クソハゼ(長崎県・大村湾)」といった具合だ。また、前述のように小型の当歳魚を「デキハゼ」と呼ぶなど、成長過程に応じても呼び名が変わる。
各地の食文化のなかにも、マハゼは取り入れられている。東京では、いわゆる江戸前の魚のひとつに数えられ、天ぷらだねや佃煮として親しまれてきた。また、宮城県・仙台などでは、ハゼの焼き干しが伝統的な雑煮のダシとして使われている。
釣りの対象魚としてのマハゼに目を向けると、やはり江戸前の釣りが有名であるが、地方独特の伝統漁法として、宮城県・松島湾の「数珠子釣り」が挙げられる。これはアオイソメに木綿イトを通したものを2本作り、それを縒り合わせて塊にして、ハリを付けずに、エサに食い付いたマハゼを釣り上げる方法だ。エサに木綿イトが通されているので、マハゼはエサをかみちぎることができずに、数珠子をほおばったまま釣り上げられる。ハリがないために手返しがよいという、逆転の発想の見本のような釣り方だ。
川の下流部から汽水域、河口部にかけては、デキハゼと呼ばれる当歳魚が釣りやすい。少し立ち込んでノベ竿(リールを使わない釣り竿)で釣るスタイルはビギナーにもお勧めだ。また、少し水深のある場所を狙うには、ボート釣りがお勧め。深い場所ではマハゼのサイズも大きくなる傾向がある。晩秋からは、船釣りの対象にもなる。
【ウキ釣り】
岸から、あるいは膝下まで立ち込んでシーズン初期のデキ(当歳魚)ハゼを釣るには、手軽な玉ウキ仕掛けが楽しい。大切なのはエサが底に着いていることなので、ハリスが底を這う程度にウキ下(ウキから針までの長さ)を調節する。オモリベタの状態より、少しエサが動くため、それが誘いになる。エサはアオイソメかゴカイ、ジャリメの通し刺し(釣り針の真っ直ぐな部分に沿う様に餌を付ける。針先は露出)で、タラシ(針よりも長いエサの部分)は1㎝程度にする。エサが目立たなくても、目の前に落としてやればデキハゼは積極的にエサを突っつきにくる。
【ミャク釣り】
ウキ釣りでは、ポイント移動や潮の干満で水深が変わると、そのたびにウキ下を調整しなければならない。ビギナーにはこの点が難しいが、オモリが底にある状態を感じ取りやすいこの仕掛けであれば、比較的簡単にエサを底につけておくことができる。オモリの重量があるので、足元から深くなっているようなポイントでも有利だ。
仕掛け(針、糸、金具などを組み合わせて作る部分)は、小型テンビンとタイコオモリの組み合わせが定番だが、図のようにテンビンを廃してナス型オモリを使うほうがよりシンプル。ハリス(針を結んだ糸)がオモリの上から出ているので、オモリを着底させれば確実にエサも底付近にあることになる。ただし、そのまま放っておくと食い逃げされることが多くなるので、オモリで底を小突くようにしてアタリ(魚が食付いた信号)を拾っていこう。
【フカセ釣り】
軽い仕掛けをゆっくりと落とし込み、誘いをかけて釣る方法で、どちらかというとベテラン向きだ。オモリが着底したら5秒ほどで軽く竿先を上げて聞きアワせ(竿をそっと持ち上げて魚を掛ける動作)し、再びエサを落とし込むの繰り返し。ミチイト(竿から来るメインの糸)の動きでアタリを取れればベストだが、目印などを付けることでアタリが取りやすくなる。
【チョイ投げ釣り】
彼岸ハゼと呼ばれるサイズになってくると、徐々にポイント(魚の居る場所)が深く、遠くなる。投げ釣りが有利になるのは、この時期だ。ただし、いたずらに遠投すれば釣れるというものではなく、時合い(魚が釣れる時間帯)によってはかなり浅いところで釣れることがある。そんな状況でお勧めしたいのが、ライトタックル(細身で短い釣竿・小型リール・仕掛けなど軽い道具の組み合わせ)を使ったチョイ投げ釣りだ。
竿は小物竿やルアーロッドなどを使用し、オモリは中通しオモリやガン玉などを使う。オモリは軽いほうがアタリが出やすくなるので、最大でも3号までにしておくこと。ミチイトには極細のPEラインを使うことで、軽い仕掛けでも遠くへ飛ばすことが可能だ。
■詳しい釣り方の解説
ハゼのチョイ投げ釣り(入門者向け)
天ぷら
唐揚げ
刺身
マハゼの白身は淡泊ななかに深い味わいがあり、天ぷらを筆頭に、唐揚げ、煮付け、甘露煮、大型のものは刺身でも食べられる。また、真子(卵巣)の煮付けや塩辛は珍味として、とくに東京では珍重される。
天ぷらの場合、ハゼの中骨を取り除き、揚げる直前まで冷蔵庫で冷やしておくのがコツ。天ぷらや唐揚げが余ってしまったら、たっぷりの長ネギのみじん切りと少々の鷹の爪、それに麺つゆ、酢をかけて冷蔵庫で寝かせた「揚げ浸し」にするのもいい。冷蔵庫で1~2日置いておくと骨まで柔らかくなる。お好み次第で、南蛮漬けやマリネにするのもおいしい。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)
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*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)