世界では、少なくとも50属400種以上の魚がハタ科に属していると考えられており、日本には11属40種近くが棲息している。主な仲間に、全長1m・100㎏以上に達し、ハタの仲間ではもっとも美味とされているクエをはじめとし、マハタ、アオハタ、アカハタ、イシナギ、カンモンハタなどが挙げられる。
本種はハタ科マハタ属に分類され、青森以南の日本各地、さらに、朝鮮半島南部から中国沿岸にかけて広く分布する。
キジハタ【雉羽太】
- 分 類スズキ目ハタ科マハタ属
- 学 名Epinephelus akaara
- 英 名Redspotted grouper
- 別 名アコウ、アコオ、アコ
釣りシーズン ベストシーズン 釣れる
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
最大で全長60㎝近くになる個体もいるが、比較的多く見られるのは30㎝ほどのもので、ハタとしては小~中型の種である。
体はやや長く側扁し、眼は緑色、体色は紫褐色で、体全体に瞳孔大の橙黄色の斑紋が密に分布する。この斑紋は、高齢魚になると不明瞭になる。各ヒレは黄色みが強く、背ビレ第11棘下の背側に、黒っぽい大きな斑紋がひとつある。幼魚には体側に3本の黄色い縦帯があるが、成長とともに不明瞭となり、老成魚では消失する。
本種と同じマハタ属のノミノクチによく似ているが、ノミノクチは斑紋が暗赤色であることから識別できる。
沿岸の浅い岩礁域を好み、内湾の堤防やゴロタ場周辺にも棲息する。主に単独で行動し、群れはつくらない。
昼間は岩陰や磯ぎわなどに潜んでいるが、早朝や夕方には中~表層に浮上して活発にエサをあさる。多毛類、二枚貝類、節足動物などさまざまな生物を食べるが、主要なエサはカニやエビなどの甲殻類で、なかでもカニを好む傾向がある。ひんぱんにエサを捕食するのは早朝と夕方だが、日中でもエサとなるカニやエビが流れてくれば捕食する。また、大型の個体は魚食性が強まる。捕食が活発になるのは、水温15℃前後。飽食すると丸2日ほど索餌せず、冬場の低水温時には週に1回程度しか捕食しないこともあるという。
産卵期は7~8月で、水深100m以上の深海にいるオスが浅海の岩礁域にいるメスのところまでやってきて産卵を行う。水温25~27℃で受精後約24時間で孵化し、全長3㎜ほどになると浮遊生活から底棲生活へと移行する。全長5㎜程度にまで成長すると、体側に多数の朱紅色斑紋が現れ、眼も濃緑色になり、成魚とほぼ等しい姿になる。
水温25℃でもっともよく成長し、通常は孵化後3年で25㎝、4年で30㎝程度に成長する。また、ベラ科やブダイ科の魚と同じく、まずメスとして成熟し、成長するとオスに性転換して繁殖に参加する雌性先熟の性転換を行うことが知られている。性転換するのは、全長40㎝程度の個体である。
温暖系の魚だけに関東ではあまりなじみがないが、西日本では高級魚として珍重され「夏のフグ」ともいわれる。店頭に並ぶことはなく、ほとんどが高級料亭などに直行し、1㎏5,000~6,000円の高値で取引される。
漁獲量はもともと少ないが、近年はとくに減少しており「幻の超高級魚」といわれるほど。そのため、各地で種苗の量産試験や放流実験が盛んに行われるようになり、同時にこれまで解明されていなかった生態が少しずつ分かってきた。
キジハタという和名は、体色が雄のキジの羽に似ていることから付けられた。また、赤みがかった鮮やかな体色から、西日本では「赤魚(あこう)」という名で親しまれている。
ほかにも地域名は数多くある。愛称語の「ア」と、魚名語尾である「コ」を合わせた、うまい魚を表す呼称である「アコ(瀬戸内)」。カサゴ(ハチメ)の仲間に似ているが、体表が滑らかである魚という意の「ナメコバチメ(能登)」。ノミに刺されたような跡の赤色小斑紋が点在していることから「呑の口」の意で「ノミノクロ(長崎)」。「岩礁の魚」という意の「セモン(福岡)」。「夜、寝ずに活動する」という習性から「ヨネズ(若狭湾)」。藻のある岩礁に棲む魚という意味の「藻魚(もくず)(富山)」「藻(も)色(いお)(鹿児島)」など、じつに多彩だ。
キジハタは堤防や磯場、ゴロタ(大小不揃いの大きな丸い石)などのほか、海釣り公園などの手近な場所でも釣れる。岸から釣る場合は、水深20m以上の深場に隣接したポイントが有望だ。釣れるサイズは30㎝未満が主体。タイミングが合えば日中でも釣れるが、朝夕のまづめどき(夜明け前や日没前後の薄明るい時間帯のこと)や夜釣りのほうが期待できる。
また、山陰・北陸地方では船釣りの人気対象魚となっており、50㎝ほどの大型が望める。専門の船は出ていないが、泳がせ(餌となる小魚を釣り、それをエサに釣る釣り方)五目釣り船などで狙うことができる。
【探り釣り】
タックルは、3m前後の磯竿やロックフィッシュ(メバル、カサゴ、ソイ等の底棲の魚)用などのルアー竿に、小型スピニングリールの組み合わせ。防波堤などの岸ぎわを狙う場合は、短めの竿のほうが有効だ。ハリス(針に結んだ糸)は2号、ハリはチヌバリ1~3号が標準。市販されている根魚用のハリでもよい。エサは、ヒラメやマゴチ用のエサとして売られている冷凍イワシを使用する。エサは常温でゆっくり解かし、ハリを口から入れて腹の真ん中に抜くようにする。
ポイントは岩礁や障害物のまわり。堤防のきわやスリット(堤防の継ぎ目にある隙間)、消波ブロックの隙間なども有望だ。
仕掛けが底に着いたらイトフケ(糸のたるみ)を取ってアタリを待つ。ときおり仕掛けに誘いを掛ける(竿を上下して餌を躍らせる)のもよい。アタリ(魚がエサに食いついた感触)があったら同じ場所に仕掛けを落とし、入念に探る。キジハタは根に潜る習性があるので、ハリ掛かりしたら即アワセ(すぐに大きく竿をあおること)が基本だ。
【ルアーフィッシング】
キジハタはルアー釣りでも人気の好ターゲットだ。使用するルアーは、甲殻類を模したクローワームがお勧め。リグ(ワームを使用した仕掛けの総称)は根掛かりに強いテキサスリグ(シンカーにラインを通した障害物を回避しやすい仕掛け)とする。キジハタは甲殻類の頭部を一度かんで弱らせた後、再度捕食するという習性があるので、ワームの頭部へのバイトにフッキングできるよう1/0~2/0(ワーム用の針、ワームフックのサイズの呼称)のやや大きめのフックを使用するとよい。また、アピールを高めるために、ビーズを通すのも効果的だ。取り込む際や根掛かりしたときにラインが切られないよう、リーダー(ハリスのルアー用語。針に結ぶ糸)を長めにし、リールに巻き込めるようにしておく。根が非常に荒い場所では、PEライン(高密度ボリエチレン素材でできたより糸)のシステム(仕掛け一式)を組まず、フロロカーボン(フロロカーボン素材の糸)を通しで使うほうが無難だ。
釣り方は、ポイント全体をリフト&フォール(竿をあおってルアーを上方へ上げ、ゆっくりと落とす)、または、タダ巻き(リールを一定に巻く)で広く誘うのが基本だ。岸ぎわ、岩のえぐれ、 沈み根(水中に沈んでいて見えない岩)などの明確なポイントでは細かくシェイク(小刻みに竿を動かしてルアーを躍らせる)したり、シェイク&ポーズ(糸を張った状態で止めてルアーの動きを止めること)で誘うのも有効。また、激しい動きに反応がよいことも多いため、大きく速くシャクって(魚を誘う為に竿をしゃくりあげる動作)みるのも手だ。
【泳がせ釣り】
船釣りの場合、「日本海仕様」などと呼ばれている2~3本バリの市販の泳がせ仕掛けがお勧め。自作する場合は、枝ス(針を結ぶ糸仕掛けの横方向に伸びる糸)は4~5号50~70㎝ほどを2~3本、 幹イト(道糸。リールに巻いてあるメインの糸)5号以上(枝間は枝ス同士が絡まない程度)、 捨てイト(仕掛けが引っ掛った際にオモリだけ切れるようにセットされた糸)3号50㎝程度を目安にしよう。オモリは50号が基本だが、80号も用意したい。エサの小アジは、口の中から鼻に向かって上アゴにハリを刺す。小さいアジなら背掛けでもいい。
仕掛けを落とし、着底したらイトを巻き上げて、エサの活きアジが底から1~2mくらい上を泳ぐようにする。アタリがあったら、ゆっくり竿を立てて聞きアワセ(魚が掛かっているか確認するためゆっくり竿をあおる)をしてから巻き上げる。竿に乗ったら(魚が掛かった重みを感じたら)、すみやかに根(魚が潜んでいた岩)から離そう。
【タイラバ】
オフショア(沖)のルアーフィッシングでは、メタルジグをアクション(動かして)させて狙うのもおもしろいが、タイラバでスローに誘うスタイルも人気だ。
タックルは、6フィート前後のタイラバロッドやライトジギングロッドに、小型両軸リールの組み合わせが基本。狙う水深や潮の速さなど、変化するさまざまな状況に対応できるよう、タイラバは60~100gまでを各種揃えておくとよい。カラーは、ゴールド、ピンク、オレンジなど。状況によってはインチクを使うのも有効だ。
釣り方は、タイラバを竿下に投入して着底させたら、一定の速度で巻き上げてくればよい。乗船者が少ない場合に限るが、食いが悪いときは斜め沖に投げ入れて広く探ってみるのも効果的だ。リーリング中(リールを巻いている最中)にアタリがあったら、そのまま止めずにゆっくりと巻き続け、竿に乗るまで待ってからアワセを入れる。フォール中(ルアーを底まで沈めている時)などにアタリがあった場合は、竿をあおり過ぎないよう、胴に乗せる(竿先を上げるのではなく、竿の真ん中を上げるイメージ)ようなイメージでアワセを入れる。
製品例
タイラバ
刺身
潮汁
キジハタの旬は夏。淡泊でクセのない上質な白身は豊かなウマミがあり、食感もよい。
新鮮なキジハタは、やはり刺身が美味。その他、煮付け、酒蒸し、唐揚げなど、さまざまな料理でおいしくいただける。
また、アラからも良質のダシが取れるので、頭や中骨は潮汁や吸い物にするとよい。
*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)