バショウカジキ【芭蕉梶木】

バショウカジキ【芭蕉梶木】 イラスト:小倉 隆典
  • 分 類スズキ目マカジキ科バショウカジキ属
  • 学 名Istiophorus platypterus
  • 英 名Indo-Pacific sailfish
  • 別 名バショウ、ビョウブサシ、バンバ、ミノカジキ、セイルフィッシュ

釣りシーズン ベストシーズン 釣れる

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

分類・分布

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バショウカジキは、スズキ目マカジキ科に属する魚の一種。長大な背ビレが特徴のカジキで、釣りの対象として人気が高い。
インド・太平洋の熱帯・亜熱帯・温帯域に広く分布し、沿岸海域を回遊する傾向が強い。ニューギニア近海、ソロモン群島、フィリピン近海から日本近海にかけての黒潮流域、およびメキシコ太平洋岸などはバショウカジキ群の回遊域として知られている。オーストラリア・タヒチ・ハワイなどにも本種の回遊が見られるが、南米太平洋岸にはほとんど見られない。インド沿岸、セイロン近海にも多くのバショウカジキの回遊が見られる。


特徴

最大でも100㎏以下と、カジキ類のなかでは小型である。ほかのカジキ類同様に上アゴが伸びているが、他種に比べて第1背ビレが大きく発達するのが特徴だ。腹ビレは細長く、吻とほぼ同じ長さになる。
第1背ビレの鰭膜は濃青色で、その上に小黒点が散在する。その他の各ヒレは黒褐色を帯び、ときに濃青色を帯びる。体側に淡青色の数個の円点からなる横縞模様が10数列あるが、個体によってはっきり出るものと出ないものがある。
カジキ類のなかで本種はもっとも速く泳ぐことができ、その速度は54ノット(時速100㎞)以上といわれる。トップスピードなら、25mプールを1秒足らずで駆け抜ける速さに相当する。水中最速の動物として、ギネスブックにも記載されている。
多くの高速遊泳魚に共通することであるが、体は紡錘形をしており、水の抵抗を受けにくい。また、体の後半部の筋肉が発達しており、柔軟な背骨を左右にしならせることで強い推進力を得る。第一背ビレと尻ビレには、ヒレを格納するための溝があり、高速遊泳時にはこの溝にヒレを収納し、ブレーキをかけるときにヒレを大きく広げる。鎌のような三日月型の尾ビレは、長時間の持続的遊泳と短時間の爆発的遊泳の両方に適した形状である。尾柄には水平隆起線があり、遊泳時には小さな翼となって水から揚力を得ると同時に、横揺れを防ぐ効果もある。
さらなる特徴として、筋肉に「奇網」という熱交換器官を備え、まわりの海水よりも体温を高く保てることがある。これは、水温が低いと筋肉の動きが鈍くなる変温動物である魚の短所を克服するものだ。


性質

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ほかのカジキ類と同様に外洋回遊性だが、もっとも沿岸に近づく性質がある。日本近海では、東北地方以南に分布するが、北海道でもまれに見られる。秋になると、対馬暖流に乗って日本海側にも回遊してきて、沿岸の定置網で漁獲されることがある。大きな群れは作らず、単独、あるいは数尾ほどの小さな群れで行動する。
食性は肉食性で、エサとなるイワシ、アジ、カツオ、イカ類を見つけると、長い吻で叩き、弱らせてから捕食する。捕食のときなど、興奮すると巨大な背ビレはミッドナイトブルーに光り輝く。
第一背ビレは普段は折りたたまれて目立たないが、背ビレを水面上に広げて泳ぐことがある。その他、獲物を追って急旋回するときなどにも大きく広げる。帆のように広がることから、英語では「Sailfish(セイルフィシュ)」と呼ばれ、日本語では真っ直ぐな葉脈のあるバショウの葉にたとえられる。
日本近海産のものは、4~8月にフィリピン東方海域で産卵する。幼魚は第1背ビレと第2背ビレが連続しているが、成長するにつれ小さな第2背ビレが分離する。


文化・歴史

日本での地方名はビョウブサシ(富山・石川)、ミノカジキ(神奈川)、スギヤマ(三重・和歌山)、バショウ、バンバ(高知)、バレン(山口・福岡)、ハウオ(長崎)、アキタロウ、ゲンバ(鹿児島)など、じつに多彩である。鹿児島県では、バショウカジキは秋の訪れを知らせる風物詩として昔から「秋太郎」として親しまれ、秋の「かごしま旬のさかな」にも選定されている。


釣り方

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カジキ類のなかでも沿岸に出現することが多いバショウカジキは、フッキングすると潜り、跳ね、テールウォークと華やかにファイトする人気のターゲットだ。トローリングはもちろん、ライトタックルやフライフィッシングでも楽しめる。
なお、IGFA世界記録となっているバショウカジキは、1947年2月12日、エクアドルのサンタ・クルーズ島沖で釣られた100.24㎏。国内では、2011年5月5日に沖縄・慶良間堆(けらまたい)で71㎏が釣り上げられ、話題を呼んだ。

【ルアーキャスティング】

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バショウカジキは、ライトタックルによるルアーキャスティングゲームで狙うことができる。とくに、鹿児島海域では、8月中旬~11月初旬にかけて1日当たり500~1,000本が市場に水揚げされているほどバショウカジキが濃く、専門に狙える船もある。
船でティーザー(魚を寄せる囮)を曳きながらバショウカジキがアタック(食いつく)してくるのを待ち、タイミングをみてペンシルベイト(水面で誘うタイプのルアー)などをカジキの横面にキャストする狙い方と、ナブラ撃ち(小魚の群れがそれを狙う中、大型魚に追われ海面にさざ波をたてながら逃げ惑う箇所へルアーを投げ込む)で狙う釣り方の2種類がある。
使用タックルは、シイラ用やマグロ用キャスティングタックルをそのまま流用できる。リーダーは、フロロカーボン(フロロカーボン素材の糸)、またはナイロン(ナイロン素材の糸)の60ポンド(約27㎏ 1ポンド:約0.45kg)を2m前後結び、さらにその先にビル(吻くちばし)での擦れ防止のため130ポンド(約58.5㎏ 1ポンド:約0.45kg)のファイティングリーダー(道糸の先に結ぶ太い糸)を接続する。ビルの長さは80~100㎝くらいなので、1m前後接続しておくとよい。

製品例
ペンシルベイト

【フライフィッシング】

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フライフィッシング(羽や動物の毛でエサに似せた毛針を使用した釣り)でバショウカジキを狙うのは、国内では難しいが、チャレンジしている人もいる。
ロッドは、♯12~14の9フィート(3m)が主流。リールは、十分なラインキャパシティ(糸の収納量)があり、ドラグ性能のよいものがベスト。バッキングライン(リールに最初に巻く予備の糸)とフライラインの間に、ナイロン30ポンド100mのショックアブソーバー(緩衝用の糸)を入れ、フライラインの先には20ポンドのクラスティペット(ハリス)を40~60㎝結ぶ。さらに、80~100ポンドのショックリーダーを30㎝程度接続する。バショウカジキは、ボリュームがあり軽いフライが効果的だ。ポッパーやストリーマー(小魚を模した毛針)など各種用意しよう。
釣り方は、ティーザーなどをトローリング(ルアーを船で引っ張りながら魚を釣る方法)で引っ張り、カジキをティーザーにじゃれつかせるようにさせた状態で引き寄せ、船と魚の間合いを詰める。フライ(羽や動物の毛で昆虫に似せた毛針)の射程内に入ったところで、大型フライを打ち込む方法が一般的だ。


料理

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肉は繊維質が強く脂肪の少ない赤身である。尾に近い部分には筋が多くてパサついているが、頭部に近ければ筋も気にならず、脂もあってなかなかうまい。味はマカジキ、クロカジキ、シロカジキに劣るが、油を使ったフライやムニエルがおいしい。

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

*監修 西野弘章【Hiroaki Nishino】
*編集協力 加藤康一(フリーホイール)/小久保領子/大山俊治/西出治樹
*魚体イラスト 小倉隆典
*仕掛け図版 西野編集工房
*参考文献 『週刊 日本の魚釣り』(アシェットコレクションズ・ジャパン)/『日本産魚類検索 全種の同定 中坊徹次編』(東海大学出版会)/『日本の海水魚』(山と渓谷社)/『海釣り仕掛け大全』(つり人社)/『釣魚料理の極意』(つり人社)

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